自社が強みを持つ既存ビジネスとシナジーがある企画は、他社に真似されにくく、価格競争に陥るのを防げる。シナジーとオリジナリティを両立した企画を作る「既存ビジネス組み合わせ法」を学ぼう。

 「西部課長。クラウドファンディングの再検討の件、課長はどう思いますか?インターネットを使って資金の出し手と受け手をつなぐクラウドファンディングは、銀行の融資業務とバッティングするのでしばらく様子見になっていました。ですが、最近になって検討を再開することになりまして…」

 システム企画室の岸井雄介は、食堂で昼食をとっている経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「ああ、あれか。クラウドファンディングは融資業務と競合する融資型だけでなく、出資型、寄付型、購入型もある。岸井がこれまで手掛けてきた地域通貨やブランド養殖魚、店舗集客などとシナジー効果を出せる余地はたくさんあるんじゃないか?」

 「実は企画部の宮本担当部長にも同じことを言われました。クラウドファンディングを活用する企画について説明したら、『既存ビジネスとのシナジーがない』って嘆かれたんです」

*   *   *

 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、企画部と一緒にクラウドファンディングのビジネス企画を検討している。クラウドファンディングには様々な分類があるが、一般には資金の返済義務のない出資型や寄付型、資金の返済義務がある融資型、商品やサービスを買う購入型がある。なかでも融資型はソーシャルレンディングとも呼ばれ、銀行融資と競合すると言われている。

 以前にA行でクラウドファンディングに取り組むべきかを議論した際、経営メンバーの間で意見が分かれた。結局、当面は様子見となった。

 それからしばらく経った後、A行の経営層は再度クラウドファンディングの活用策を検討するよう企画部に指示した。この検討の担当になったのが企画部の宮本担当部長と当時検討担当だったシステム企画室の岸井である。

 岸井は急いで他の地銀やメガバンクの事例を調査し、企画部の宮本担当部長に説明した。

*   *   *

 「岸井補佐、クラウドファンディングの活用策の検討はどうなっている?」

 「担当部長、他の地銀やメガバンクを調査しましたが、クラウドファンディングについて目新しい活用策はない状況です。ここは、もう少し様子を見ることが得策だと思います。クラウドファンディングは融資業務とバッティングしますので、当行の融資業務の収益をクラウドファンディングが侵食するリスクがあります」

 「それは銀行側の発想だろ?収益を確保することは必要だが、顧客が求める新サービスを無視していいわけがない。顧客が銀行からの融資でなく、クラウドファンディングを求めるなら、それを提供することも必要だ」

 「それはそうですが…それなら、当行本体では融資ができない企業に、クラウドファンディングのサービス事業者を紹介して手数料を得るビジネスはどうでしょうか?これなら当行にリスクはありません」

 「そんなにうまくいくとは思えない。クラウドファンディング事業者は手数料を払わずに済む当行顧客との直接取引を望むだろう。仮に紹介ビジネスが成り立ったとしても、他の銀行が同じことを始めたら価格競争になって疲弊する。結局、差異化できていないビジネスは血を出し続ける競争を意味するレッドオーシャンになる。新しいビジネスを企画するには、真似されず、競争がないブルーオーシャンを目指す必要がある」

 「そうおっしゃいますが、当行は借り手の信用力を数値化して利率を決めるスコアレンディングに力を入れている最中です。融資業務としてスコアレンディングもやる、クラウドファンディングもやる、ではどっちつかずになります。当行はスコアレンディングをメインにして、そこで融資できない顧客に限りクラウドファンディング事業者を紹介し、手数料を得るべきです」

 「それは違う。クラウドファンディングには融資型のほかにも、出資型、寄付型、購入型がある。特に購入型は、プロジェクトの資金を出してもらう見返りに開発した商品やサービスを提供する枠組みだ。岸井補佐がこれまで手掛けた古民家民泊、地域通貨、ブランド養殖魚、地域特産健康野菜などのビジネスとのシナジーを出せるのではないか?」

 「既存のビジネスでクラウドファンディングが生かせるようなアイデアは思いつきません。クラウドファンディングは両刃の剣です。頑張れば頑張るほど、既存融資の収益が侵食されるリスクがあります。まずは手数料ビジネスで稼ぎながら様子を見ることが最善です。そう思いませんか?」

 「全く思わない。成長できるビジネスを企画するなら、他社や他行にできないオリジナルの企画を実施する必要がある。君の言うことは既存ビジネスとのシナジーがない。シナジーのある企画を考えた上で説明に来てくれ」

 岸井は宮本担当部長の言うことは理解できたが、難しいと思った。そこで、クラウドファンディングをどう使うべきかのヒントを西部課長に教えてほしいと思った。それが冒頭の件である。

図 既存ビジネスとシナジーがないプレゼンの例
アイデア次第で、意外なシナジーが生まれる
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