本連載では筆者らが長年のコンサルティング活動で得た経験やノウハウを基に、ITマネジャーがプロフェッショナルとなり、ITを事業に活用するための活動を主導できるようになるための条件を「八つの力」として提示する。

 「次の人事異動でIT部門のマネジャーに就任する。情報システムのことなんか、よく分からないよ」

 「これまで社内システム開発一筋。マネジャーになりたてだが、上司には『いつまでも社内SE気分では困る』とよく言われる。でも企画や調整作業は面倒で、どうもなじめない…」

 筆者らは、ユーザー企業のIT部門の方々と一緒に仕事をする機会が多い。その際、IT部門のマネジャーあるいはその一歩手前の方々から、こんな悩みを耳にすることがある。

 確かに、IT部門のマネジャーを務めるのは容易でない。いきなりIT部門を率いるようにと言われたら、多くの人はとまどうのではないだろうか。

 その一方で、「この人はプロフェッショナルだ」と思えるITマネジャーは存在する。ユーザー部門からの一見無茶な要求事項に対して、実現可能な対案を示す。相手は「君がそう言うなら、仕方ないな」と受け入れる。ITの力を経営に生かすことに大きく貢献しており、経営陣の信頼は厚い。このようなマネジャーと仕事をする機会もある。

 昨今の技術の進歩や、事業環境の急激な変化に対応するために、ITの力は一層欠かせなくなりつつある。IT活用の巧拙が事業に与える影響は、より大きくなるということだ。

 そうした状況では、ITを事業に生かすための活動をITマネジャーがリードできないと、会社全体が不幸になると言わざるを得ない。今こそ、全てのITマネジャーは「プロフェッショナル」になることを期待されている。

 本連載では筆者らが長年のコンサルティング活動で得た経験やノウハウを基に、ITマネジャーがプロフェッショナルとなり、ITを事業に活用するための活動を主導できるようになるための条件を「八つの力」として提示する。現在、ITマネジャーとして活動している方だけでなく、これからマネジャーへの道を歩もうとしている方や、ユーザー企業に協力する立場にあるITベンダーの方も参考にしていただきたい。

プロが備えるべき八つの力

 プロフェッショナルITマネジャーが備えるべき八つの力は、以下の通りである(図1)。

図1 プロフェッショナルITマネジャーが備えるべき八つの力
ITを事業に生かすには
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1. 掘り起こす力

 経営陣やユーザーの要望を字面通りに受け止めるのではなく、真に実現したいことが何なのか会話などを通して明らかにしていく力

2. 突破する力

 ビジネスに成果をもたらすための精緻なIT企画を策定するだけでなく、経営陣に理解してもらい、承認してもらう力

3. 捌さばく力

 経営陣やユーザー部門から寄せられる要望や、IT部門として取り組みたいことについて、やること・やらないこと、取り組む順番の判断を外部の状況などを踏まえて見極めていく力

4. 仕切る力

 企画やプロジェクトを進める際に、一つひとつの会議の目的を明らかにし、会議の展開を踏まえて事前の準備を行い、参加者を招集し、会議の目的を達成する力

5. 付き合う力

 最新情報を得たり、IT部門に求められる役割を果たしたりするために、社外の専門家や協力会社などと関係を築く力

6. 巻き込む力

 社内外を問わず様々な関係者に対して、企画やプロジェクトを進めるために、体制構築、情報提供、推進支援などに関する協力を獲得する力

7. 嗅ぎ分ける力

 自身の経験や事例、アドバイスを踏まえ、部下の成果物やベンダーの報告内容、現場の雰囲気などからリスクを察知し、手を打っていく力

8. 推し進める力

 綿密に計画したとしても、思いも寄らない事態が発生して状況が変化し得ることを前提に、企画やプロジェクトを遂行していく力

 次回からは、これら八つの力について解説していく。ぜひこれらの力を身に付け、真のプロフェッショナルITマネジャーを目指してほしい。

 今回は初回なので、IT部門やITマネジャーを取り巻く状況を改めて確認しておきたい。

複雑さを増すIT部門の環境

図2 IT部門を取り巻く環境の変化
社会もビジネスも複雑化
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 まず、IT部門の置かれている状況をおさらいしよう。IT部門を取り巻く環境は複雑さを増す一方だ(図2)。

 IoT(インターネット・オブ・シングズ)の登場と普及は、その典型例の一つである。様々なモノをネットに接続し、センサーから多用な情報を得られる世界が現実になりつつある。人工知能(AI)の普及ぶりも目を見張るものがある。こうしたITの高度化がビジネスを変えていくのは間違いない。

 社会全体の情報リテラシーも、一昔前に比べると段違いの差がある。いまや多くの人がスマートフォンやタブレット、PC、様々な情報機器を当たり前のように使いこなしている。高度化したITを使いこなす素地が整いつつある点も意識しなければならない。

 ビジネス面に目を転じると、業務や戦略の多様化はとどまるところを知らない。その中には、ITの進歩により可能になったものが多い。eコマース(電子商取引)は、小売りの時間と場所の制約を取り払った。昨今のポイント経済圏も、ITの力なくして成り立たない。ITが企業戦略をドライブしているといっても過言ではない。

 業務の複雑化やグローバル化も加速している。生産や販売の拠点が海外にあるのは当たり前。そうした拠点をまたがった業務やデータのやり取りが必須となる。

 海外企業とのM&A(統合・買収)も加速している。為替やマーケットの動向を考慮し、製販計画を動的に見直すことも珍しくない。

 IT部門はこうした環境の変化への対応を迫られる一方で、旧来からの問題も解決していく必要がある。人材育成は主要なものの一つだ。

 定期ローテーションなどでIT部門以外から異動してきた人材が、そう簡単にITの専門性を身に付けられるわけではない。中にはIT自体にあまり興味を持てない人もいる。極端に言えば、次のローテーションまで大過なく過ごせればよいという仕事の仕方をするような人もいる。

 だからといって、IT部門内の内部昇格で全てを済ませればよいわけではない。中にはITの専門性は持つものの、現業部門の課題や解決策に無関心な人もいる。

 ITスキルに長けていても、コミュニケーションやビジネスのスキルが足りない人材は少なくない。そういう人は、ビジネスに関心を持っていても、マネジメントや現業部門の人たちと話をしようとするとコミュニケーションが成り立たないといった事態が起こる。

IT部門の存在意義が問われる

 こうした状況下で、IT部門の存在意義が問われている(図3)。

図3 IT部門に求められる役割
存在意義が問われる厳しい時代に
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 IT部門に求められている役割の一つが、自社のIT戦略を思い描くことだ。自社の競争力の源泉や業務の重点は何かなどを考えた上で、様々なITトレンド情報や製品、技術から適切なものを選ぶ。それらを活用して、自社の事業戦略を明に暗に支えるIT戦略を立案できるか。

 経営層と現場の橋渡しとしてのスキルや役割も求められている。マネジメントや現業部門とのコミュニケーションを通して、要望を適切に整理することができるか。前提としてIT部門が自身がビジネス上の知識やスキルを強化しておくことが欠かせない。

 ITの専門性を基に、「業務に役に立つITとは何か」を形にすることも重要だ。マネジメントや現業部門の人たちに提案し、協議し、形に落とし込んでいくことができるか。

 いくら立派な戦略を描いても、実行できなければ意味がない。そこで求められる役割とは、実際に施策を実現するに当たり、ビジネス・ITともに精通している部門や人として、中心となって実現に邁進できるかどうかである。

 極論すれば、これらができないようなIT部門は存在意義がない、とさえ言われかねない時代が来ている。IT部門にとって非常に厳しい時代と言えるが、それだけITが企業競争力を支える源泉として、かつてないほど重要性を増していることの証左とも言える。

 冒頭に挙げた八つの力を備えるプロフェッショナルITマネジャーは、このような存在意義のあるIT部門をまとめ上げ、リードしていく人材といえる。

 トップマネジメントやビジネスの要請に基づいて、IT企画の策定/上申、リソース配分の決定、各プロジェクトの方針決定や進行管理などを行う。これがITマネジャーの基本的な仕事である。ここには部下や協力会社に指示を与え、管理することも含まれる。

 これからのITマネジャーは、これらをただこなすだけでは不十分だ。ビジネスとITの両面に精通したプロフェッショナルなITマネジャーになることが求められる。加えて、「実現させる」という意味でのプロフェッショナル性も必要になる。

図4 ITマネジャーに必要な四つのプロフェッショナル性
ビジネスとITの両面への精通が必要
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 ITマネジャーに必要なプロフェッショナル性は、以下の四つだ。まず、ITの目利きができる。次に、ビジネスを見据えながら、何をどういう順番で実現するかを企画できる。第3に、関係者を巻き込める。最後に、必要なら自分が仕切ってでも、企画を実際に実現させることができる(図4)。

 いま、あなたの会社で「営業改革」という経営課題が持ち上がったとしよう。ITマネジャーには、世の中のトレンドとしてのSFA(営業支援)ツール/サービスの動向を押さえつつ、自社の特徴とマーケット動向を考えながら、顧客接点の強化か案件管理の強化かを見極め、営業部門に提案しながら経営陣と合意を取っていく役割が求められる。ビジネスとITの両面に精通したプロフェショナル性を発揮しなければならないわけだ。

 この場合、施策の成否に関する責任は、一義的には営業部門となる。しかし、営業改革自体がうまくいかない場合は、システムの導入自体はうまくいったとしても、IT部門も責任の一端を問われることになる。

 そこでITマネジャーは、自分の担当する部分を管理するのはもちろん、関連する他部門と連携し、時に影響を与えつつ物事を完遂していく能力が求められる。ITマネジャー自身が現場に出ていく場合もあるだろうし、上司や同僚、部下などを介する場合もあるだろう。時として、外部機関を利用することもある。

 一朝一夕にこれら全てができるようになるのは難しい。まずは自分でできることをやるだけでなく、周囲を巻き込みつつ進めていき、目標を達成していくのがいいだろう。必ずしも一人だけで実現すべきものではない。

 次回は第一の能力である「掘り起こす力」について、具体的なエピソードを交えつつ解説する。

麻植 実(おえ・みのる)氏
スカイライトコンサルティング
IT戦略企画サポートグループ シニアマネジャー
大手企業からベンチャーまでのコンサルティングを経験。製造業、サービス業、商社などの業界に対し、BPRやIT戦略立案、IT導入に携わる。
出典:日経コンピュータ 2016年9月15日号 pp.76-79
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。