クラウドサービスの中で、先行する米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や米マイクロソフトを追撃する米オラクル。同社経営執行役会長兼CTO(最高技術責任者)のラリー・エリソン氏も、「SaaS、PaaS、IaaSの全レイヤーでサービスを拡充し、ナンバーワンのクラウドベンダーを目指す」と表明している。PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の開発責任者であるアミット・ザベリー氏に、同社の戦略や強みについて聞いた。

写真●米オラクルのシニア・バイス・プレジデントでPaaS開発責任者を務めるアミット・ザベリー氏
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クラウド関連の売り上げなどの現状について教えてほしい。

 我々は世界で1番のクラウドベンダーになるべく、相当規模の投資を続けている。クラウド関連のビジネスは非常にいい方向に進んでおり、今後さらに成長すると見ている。

 2016年度(2015年6月~2016年5月)におけるPaaSとSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の売上高は前年度と比べて52%成長し、22億ドルに達した。2016年度の第4四半期だけでも、新たに2005社のPaaS顧客を獲得している。

 2016年度の全売り上げにおけるSaaS、PaaS、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の割合は8%に達し、堅調に伸びている。2017年度の第一四半期(2016年6月~8月期)におけるPaaSとSaaSの成長率は、前年同期比で75~80%になる見込みだ。

日本市場での現状はどうか。日本市場をどう見ているか。

 日本市場は特に重要だ。我々にとって多くのビジネスチャンスがあると考えている。日本における2016年度のSaaS、PaaS、IaaSの売り上げは45億9400万円で、対前年度比39.3%の成長率だ。これは当初予想の16~32%を上回る。

 新規顧客もSaaSで150社、PaaSで200社を獲得した。2017年度は93~112%の成長率を予想している。パートナーと一緒に我々のクラウドを提供することで、顧客は自身が投資した分の価値を早期に回収できるようになるだろう。

 日本企業とのパートナー戦略も積極的に進めていく。その一つとして7月に富士通との提携を発表した。これは世界一流のクラウドサービスを提供するための戦略的な提携だ。

 富士通のデータセンターを使って、日本の顧客に我々のクラウドを提供していく。日本国内だけでなく、海外に子会社を持つ日本企業も対象顧客となる。

オラクルのPaaSで顧客からの支持が高いサービスはどれか。

 顧客が最も多いのはデータベースやアプリケーション開発関連のサービスだ。クラウドとオンプレミス(自社所有)のアプリ統合や、IoT(インターネット・オブ・シングス)、ビッグデータ分析といった分野も顧客が多い。

 中でも最も急成長を遂げているのは、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)管理に関するサービスの「Oracle API Platform Cloud Service」だ。これを使うとAPIの作成からパートナーとの共有、マネタイズまでAPIのライフサイクル全体を管理できる。

 クラウドの利点を享受したいがパブリッククラウドでは心配という顧客に対し、パブリッククラウドのPaaSである「Oracle Cloud Platform」と同一構成のプライベートクラウドを、顧客のデータセンター内に構築する「Oracle Cloud Machine」も人気が高い。

 金融などパブリッククラウドの利用自体に制限がかかっている業界で、テスト環境としてパブリッククラウドを使い、本番環境でOracle Cloud Machineを利用する事例も出ている。

クラウド分野で先行するAWSなどに対し、何を強みとして巻き返すのか。

 オラクルの強みはSaaS、PaaS、IaaSを全て持っており、顧客の要望に広範囲かつ深いところまで対応できる点だ。顧客はサービスの一部から使い始めて、後からほかのサービスも簡単に追加できる。全体のコストで見たときに優位性が出てくる。

 AWSはIaaSのサービスは豊富だがSaaSは提供していない。PaaSは各サービスがブロックのように点在しており、実際にアプリケーションを動かすのは大変だ。我々はSaaS、PaaS、IaaSを一貫して提供しているのに加え、データベースを初めとして、従来のプラットフォームで多様なアプリを統合してきた経験と知識がある。

 セールスフォース・ドットコムは、SFA (営業支援)やCRM (顧客関係管理)など強い分野に偏りがある印象だ。マイクロソフトやグーグルはSaaS、PaaS、IaaSを持っているが、Oracle Cloud Machineのようにパブリッククラウドとオンプレミスとの互換性では我々のほうが先を行っていると考えている。

PaaSではAWSのイベント駆動プログラム実行である「AWS Lambda」のように、仮想マシンを使わないサーバーレスシステムを実現できるサービスが増えている。この動きをどう見るか。

 我々も興味は持っているが、この潮流は正に始まったばかりだ。考え方としては開発者に対して、いかに開発しやすい環境を提供するかということが重要になる。

 サーバーレスとは異なるが、簡単にアプリを開発しやすいサービスとして、コンテナ管理のオープンソースソフトウエア(OSS)である「Docker」を使ったコンテナ型アプリ開発の「Oracle Application Container Cloud」を提供している。

 簡単なユーザーインタフェースでアプリを開発できる「Oracle Application Builder Cloud Service」というサービスもある。オラクルのSaaSをドラッグ&ドロップ操作で自社向けにカスタマイズできる。

今後、注力する分野や製品強化のロードマップについて知りたい。

 今後は複数のサービスを1つのソリューションとしてまとめて、顧客が簡単に利用できるようなサービスを数多く投入したい。サンプルコードやテンプレートを用意することで、顧客がアプリを設計する手間を省ける。

 例えばIoTの分野では、業種別で共通のユースケースを基にしたソリューションサービスを提供済みだ。製造業であれば製造のプロセスを管理する一連のサービスを、IoTのソリューションとして提供している。これはリアルタイムのストリーミング処理で集めたデータと、バッチ処理で集めたデータを合体して分析し、そこから知見を得られるものだ。

 リアルタイム処理によるファストデータとバッチ処理によるビッグデータの分析を組み合わせる仕組みとして、「ラムダアーキテクチャー」という思想がある。我々はオープンソースソフトウエア(OSS)の分散データ処理基盤である「Apache Spark」や「Apache Hadoop」、機会学習関連の技術を組み合わせることで、ラムダアーキテクチャー的なファストデータ/ビッグデータ分析基盤をクラウドサービスとして提供しようと考えている。

 この分析基盤サービス上に業種別ソリューションを組み合わせることで、より付加価値の高いソリューションを提供できる。2016年9月に米サンフランシスコで開催する「Oracle OpenWorld 2016」(米オラクルの年次イベント)では、新しい分析基盤サービスのプレビュー版を見せられると思う。