日経クラウドファースト編集長 中山秀夫

 クラウドの専門ニューズレター「日経クラウドファースト」では年間で24件のクラウドユーザー事例を掲載している。2017年に掲載した事例で筆者が最も強く印象に残ったのは、三重県伊勢市のゑびやだ。

 伊勢神宮の近くで和食店/土産物屋を運営する老舗企業であり、知られざるAI(人工知能)活用の先進企業でもある。

 店舗に据え付けたネットワークカメラで撮影した映像を基に、来店客を多面的に分析。人数、性別、年齢層、リピーターかどうかを推定するのに加え、一人ひとりの表情を読み取り笑顔かどうかなどの感情も推し量る。それらの情報を基に、土産物の棚割改善や来客数の予測精度向上につなげている。

 ゑびやのような中堅企業がいち早くAIを業務で実用化した背景には、自然言語や画像、映像を扱う学習済みクラウドAIサービスがある。ゑびやは映像分析に、米MicrosoftのクラウドAIサービス「Microsoft Cognitive Services」を使っている。このサービスは、利用開始のハードルが低い。機械学習用の膨大なデータを自社で用意する必要が無いうえに、従量課金で利用できる。

 やる気とアイデアがあれば、業種、企業規模、地域を問わず、AIを業務で実用化できる時代に突入した。2018年にはクラウドサービスを使ったAIの実用化の大競争が始まり、画像や映像など従来は死蔵させていたデータをAIによって活用する動きが広がる。

後れを取っていたAWSが猛追を始めた

 この動きを後押しするのは、学習済みクラウドAIサービスが充実してきたことだ。前述のMicrosoft Cognitive Servicesは、表情認識や機械翻訳など29種類のサービスで構成される。従来は大半がプレビューだったが、2017年第4四半期からチャットボット用フレームワーク「Azure Bot Service」や自然言語の意図解釈サービス「LUIS」をはじめ次々と一般提供に切り替えている。

 学習済みクラウドAIサービスでは、このMicrosoft、米IBM、米Googleなどが先行していた。逆にクラウドサービス最大手の米Amazon Web Services(AWS)は後れを取っていたが、追い上げを図っている。これもAI活用の追い風になる。

 声やテキストを使う会話型インタフェースの「Amazon Lex」、テキスト読み上げの「Amazon Polly」、画像認識の「Amazon Rekognition」という既存3サービスに加えて、2017年11月末には動画認識の「Amazon Rekognition Video」や機械翻訳の「Amazon Translate」をはじめ四つのサービスを一挙に投入した。それらのサービスの大半はまだ日本語に対応していないが、遠からず日本語も使えるようになるはず。AWSで学習済みクラウドAIサービスが提供されれば、ユーザー企業のすそ野が大きく広がる。

 米Amazon.comが2017年11月に日本で発売したスマートスピーカー「Amazon Echo」も、学習済みクラウドAIサービスの活用を促す。ユーザーが声で操作するEchoのエンジンは、学習済みクラウドAIサービスの「Amazon Alexa」だ。Amazon.comはAlexaをアプリケーションのプラットフォームとして制限付きで開放しており、ユーザー企業はAlexaを使った独自のアプリケーション(Alexaスキルと呼ぶ)を顧客に提供できる。

 Echoの発売時点で、ユーザー企業が提供しているAlexaアプリケーションは計265種。これだけのAlexaアプリケーションが一気に提供されたのは、多くのユーザー企業が「スマートフォンに次ぐ新しい顧客チャネル」とEchoを位置付けているからだ。2017年11月には遠隔会議などオフィス用途向けの「Alexa for Business」の提供も始まっており、顧客向けサービスだけでなく、業務改革に使われる可能性もある。

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