リスク連鎖モデルを「育てる」ことで、様々なロスコストマネジメントが実現する。特に、失敗に陥る典型的なパターンを見える化したアンチパターンの活用で、プロジェクトマネジャーが起こり得る悪いシナリオを予測し対策を打つことができる。

 前号まで4回にわたりリスク連鎖モデルについて解説してきました。前号では、複数のロスコスト要因を統合してモデルを育てていくことの大切さをお話ししました。モデルが育つと組織で発生するロスコスト要因の網羅性が増し、全体の地図のような役割を果たすようになります。これをベースに様々なロスコストマネジメントの施策を展開できるようになります。

 今回、解説するプロジェクトの「アンチパターン」もその1つです。ある程度網羅性を持ったモデルになるとノード数が数百になることもあります。こうなるとプロジェクトマネジャーが自身のプロジェクトに関連するノードを見分けるのが難しくなりますので、全体のリスク連鎖モデルから切り出したサブセットをアンチパターンとして提供します。

「同じ失敗」「同じ状況」とは

 PMOに所属していると「あのプロジェクトは○○プロジェクトと同じ失敗をしている」とか、「××プロジェクトと同じ状況に陥っている」という会話をよく耳にします。○○プロジェクトや××プロジェクトは大きなロスコストを出し、組織内でよく知られているプロジェクトです。前にも書きましたが、チャレンジする限り、ロスコストをゼロにはできません。皆さんの職場にも、思い当たるプロジェクトがいくつかあるのではと思います。

 もちろん「同じ失敗」は繰り返してはいけませんし、「同じ状況」なら過去の経験から得られた知見を基に対応しなければなりません。では、この「同じ」は何を指すのでしょうか。それが明示されずに、関係者の暗黙的な理解のまま会話が成り立っていることがあります。

 「このプロジェクト危ないぞ」「どこかおかしい」といった嗅覚は大事です。ただ周りが感じていてもプロジェクトマネジャーがリスクを感じていないと具体的な行動にはつながりません。アクションを起こすにも負荷がかかりますから、上長からの指示などが後押しすることになります。ですが、この指示が「何とかしなさい」「調べなさい」というような漠然としたものだと、それを受けたプロジェクトマネジャーも何をしてよいかよくわからなくなります。

 プロジェクトマネジャーがそんな状態でプロジェクトメンバーに指示を与えても、方向が正しくなければ調査やレポートの工数が無駄になります(図1)。あるいは少し見ただけで、○○プロジェクトと違うところを見つけて「自分のプロジェクトは大丈夫」と楽観視するのも問題です。本質的なところを見落としてロスコストにつながります。

図1●感覚的なプロジェクトのパターン化の問題点
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 そうしたことを防ぐために、リスク連鎖モデルを用いてロスコストに至る過程をパターン化します。これがアンチパターンです。これにより過去の経験から得られた知見を組織で共有することが可能となります。「同じ」というのはパターンが同じ、あるいは似ているということです。○○プロジェクトがたどった道筋をパターン化してモノサシを示すことにより、自身のプロジェクトと比べられるようになります。調べるポイントや対策の要否をはじめ、対策が必要ならどの時点で、どういう対策を打つかを考えやすくなります。

プロジェクトのアンチパターンとは

 アンチパターンは、ソフトウエア工学の世界で使われていた「デザインパターン」が語源で、失敗に陥る典型的なパターンのことです。もともとソフトウエアの設計や開発プロセスに使われていた用語ですが、今ではIT以外の様々な分野でも使われています。ですから、アンチパターンという用語を使う際には「~のアンチパターン」というように修飾語をつけて何のアンチパターンかを明確にする必要があります。

 今回は、プロジェクトのロスコストに結び付く典型的な流れをパターン化したものですから「プロジェクトマネジメントのアンチパターン」と呼ぶのが正確でしょう。ただ、これでは長いので「プロジェクトのアンチパターン」と呼ぶことにします。また、単にアンチパターンと記したときは、「プロジェクトマネジメントのアンチパターン」を指します。

 プロジェクトのアンチパターンは、図2に示すように全体のリスク連鎖モデルから、繰り返し起こりそうな一連のノードをサブセットとして切り出したものです。図では、α→C→I→Mを経由してSのロスコストにたどりつく一連の流れを、アンチパターンとして切り出しています。これにより、プロジェクトマネジャーにとって意味のあるノードの連鎖として提供します。「意味のある」とは、ロスコストに至る過程が理解でき、予防に役立つということです。

図2●リスク連鎖モデルからアンチパターンを切り出す
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