経営者は会社や事業を丸ごと動かして成果を出すことに責任を持つ。「担当分野」がないのが経営だ。担当者であれば、その分野に必要なスキルがモノをいう。ところが全体を相手にする経営という仕事になると、「センス」としか言いようがないものの勝負になる。

 競争戦略を研究する立場から、これまで多くの経営者と接してきたが、センスがある経営者には共通項がある。今日は6つの条件の下、センスある経営者をプロファイリングしてみたい。

「何をしないか」を決めれば「何をやるか」が見えてくる

 1つめは「分析よりも総合を重んじる」ことだ。担当者はすぐに分析したがる。大事なのは、こういうものを作るのだというビジョンであり、意志である。それは全体を相手にする「総合の力」にかかっている。センスのある人はまず体が動き、分からないことがあったら後で調べればいい、という順番で行動する。

 2つめは「何をしないか」を決断できること。競争戦略のロジックは、ポジショニングを明確にする、要するに「違い」をつくるということだ。この違いは軸足のしっかりしたものでなければならない。どちらがベターかという違いでは、競合との比較でポジショニングにふらつきが出る。軸足のしっかりした違いを持つ企業は「何をしないか」が明確だ。

 これで成功したのが、PCやサーバーの世界的なメーカー、デルの創業者であるマイケル・デル氏だ。世界に先駆けてBTO(Built To Order)という注文生産方式を確立した。ユーザーは自分の好みのスペックを選び、安くて品質のいいマシンを買うことができる。そのために、見込み生産はしない、自社生産でアウトソーシングもしない、という意思決定をした。つまり「何をやらないか」ということは「何をやるか」ということと同じだ。どちらがベターのイタチごっこよりも、顧客に対してはっきりとした違いを打ち出せる。

 3つめは「思考が直列」であること。経営者の中には、すぐにシナジーと言う人がいるが、そういう人は、何かと何かを組み合わせれば新しいものが生まれると思っていて、時間的な奥行きがない。だが、この時間的な奥行きこそが重要なセンスの要素なのだ。

 中日ドラゴンズの左のエースとして活躍した元プロ野球選手の山本昌さんは、ストレートの球速が135キロぐらいだったが、打者は実際以上に速く感じたという。得意とするスローカーブを投げた後、コースぎりぎりにストレートがズバッと来ると打者はなかなか手が出ない。速い球ではなく、速く見える球を投げる。これがプロなんだと彼は言っている。配球、つまり順番が大切なのだ。

 商売もこれと同じ。どこにも飛び道具や秘密兵器なんてない。でも、センスがない人は、すぐそういうものを探しにかかる。新しいテクノロジーやツールも必要だが、どういう順列や時間展開の中にそれを位置付けるか。時間的奥行きを持った直列の思考で戦略を考えよう。

商売の大原則は自由意志、代表取締役担当者はいらない

 4つめは「抽象と具体の往復運動」ができること。例えば、素材やデザインにこだわって新作のシャツを売り出したが、思うように売れない。これは紛れもない具体だが、センスのない人は横の具体に飛んで解決しようとする。去年のデータはどうだったのか、襟が違う形はどうなのか、天気の影響かもしれない、など具体的な変数を探し始める。

 センスがある人は、どんな具体に直面しても「要するにこういうことだよな」といったん抽象化して論理を持つ。この論理の引き出しが非常に充実している。問題に直面すると、「要するに」の引き出しを開け閉めして、問題の本質を突き詰める。これが抽象と具体の往復運動だ。だからどんな問題に直面しても具体的なアクションが出てくるし、意思決定が早くてブレがない。

 5つめは思考の構えが「インサイドアウト」であること。自分に問いかけ、自分で決めていく。センスのない人は思考の構えが「アウトサイドイン」になっている。何か物事を考えるときに、すぐ周りをきょろきょろする。どこかに何かいい解があって、それを拾ってくるといい戦略ができると思い込んでいる。

 6つめは「良し悪しよりも好き嫌い」。一昨年亡くなられた堀場製作所の堀場雅夫さんが経営者について語った言葉が印象的だ「。嫌ならやめろ」。好きでたまらずやるのが経営だという。この自由意志の原則がぐらつくと、経営者という名の担当者になってしまう。最悪なのは「代表取締役担当者」。代表取締役の担当業務を粛々とこなすだけ。こうなると全社総担当者体制に突入し、誰も経営していない。もはや商売の墓場だ。

 以上が端的には言い表しにくい経営センスのエッセンスである。日本は経済が成熟し、高度成長期のような右肩上がりの成長はもはや期待できない。面白い、とにかくやりたい、といった内発的な動機が戦略の原点であり、頂点だ。そこにセンスが表れると私は思っている。

出典:日経コンピュータ 特別レポート版
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