2016年は、さまざまな分野で人手不足が話題となり、大手ファミリーレストランが実質的に24時間営業をやめたり、宅配事業者がサービスの品質を落としたりといった出来事が起こった。これらは労働力の供給が足りなくなったという意味で、歴史的な事例だ。

 人手不足の解決策として移民が議論されることがあるが、これは現実的ではない。世界的に人口の増加はピークを過ぎつつあり、頼んでも日本には来てくれないからだ。それどころか、優秀な人材が日本から引き抜かれる事態もあり得る。

「三種の神器」を活用した新たなビジネスモデルが必要に

 労働力不足を解消するには、ビジネスの生産性を飛躍的に高める必要がある。「IoT(モノのインターネット)」「AI(人工知能)」「ロボット」というデジタルエコノミーの「三種の神器」を活用して、ビジネスモデルを変革しなければ現状の事業を継続することができないだろう。

 新しいビジネスモデルで成功するためには、いくつかのパターンがある。

 一つ目が「ブラックボックスモデル」だ。自動化の仕組みを組み込んだ機器を世界中に提供。機器を経由して収集したデータからノウハウを蓄積し、収益に結びつける。自動化の仕組みは完全にブラックボックス化して、顧客には見せないようにする。これによって、新規参入が難しくなるとともに、顧客を囲い込むことができる。

 例えば、植物工場向けに制御装置を提供するオランダの企業は、顧客に種と装置を無償で提供する対価として農作物の売り上げの一部を得るビジネスモデルを計画している。装置はインターネットにつながっていてデータを収集するが、利用する農家はデータを得られずにノウハウを蓄積できない。顧客が“小作農”になってしまうビジネスモデルだ。

 おそらく、IoTを活用したビジネスにおける勝ちパターンは、このモデルになるだろう。

 もう一つのパターンが、時差を使った遠隔操作。例えば、建設機械などを遠隔操作すれば、8時間ずつ時差がある3カ国から操作して24時間建設作業ができるようになる。こうした取り組みは既に始まっていて、例えば日本の携帯電話通信は8時間ごとに監視するセンターが切り替わっている。

 最後のパターンが、足りない技術を環境で補うという判断だ。人間の作業をそのままITで置き換えるのは技術的なハードルが高いが、周りの環境を整えれば導入しやすい。この好例が、高速道路を使った自動運転トラックによる配送だ。

 自動車の自動運転技術は、高速道路なら2020年に実用化できる見込みだ。しかし信号があり、ほかのクルマの割り込みや子どもの飛び出しがある一般道路では、まだまだ実用化は難しい。そこで、夜間に高速道路の1車線を専用レーンとして、自動運転トラックが隊列を組んで走行する計画が立ち上がっている。

 人間と同じ運転ができる自動運転技術を目指すのではなく、自動運転でも事故が起こらない環境を用意することで新しいビジネスモデルの実現が近くなる。

現場に近いところでビジネスモデルを考える

 国が違うと成功するモデルが異なるというケースもある。例えば、日本で大きな話題を集めた物流の労働力不足という問題を考えてみよう。

 日本では、集配負荷を軽減するために宅配ボックスが注目された。大手の通販事業者が、やがて宅配ボックスを無償で配ると言われている。

 一方、米国ではドローンを使った配送を実用化しようとしている。米国での議論では、配送ドローンに強盗をするドローンが現れるのではないかという懸念があったそうだ。これに対する解決策が、そのドローンを撃墜するドローンを開発すればよいという話になったという。おそらく日本人では、このような発想は出てこないと思う。

 スーパーやコンビニの決済でも、これと似たような構図がある。日本では人の仕事をロボットに代替させるべく、商品の会計や袋詰めを自動化する「無人レジ」の実用化に取り組んでいる。

 一方、米国ではアマゾン・ドットコムが実験的食料品店「Amazon Go」でレジそのものをなくした。利用者はスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、入り口でスマホをかざしてチェックインする。欲しい商品を棚から取り、そのまま店から出れば買い物は完了だ。店内のあちこちに設置されたカメラの画像から顧客が棚から取ったり棚に戻したりする行動をAIで認識する。顧客が店から出る際に、購入した品物に対して、あらかじめ設定した口座で決済されるという仕組みだ。

 国ごとに文化や慣習、考え方が違うので、米国で大きな成功を収めたモデルをそのまま日本に持ってきても成功するとは限らない。ビジネスの現場に接近したところでニーズや課題を見いだし、ビジネスモデルを考えていくことが大切だ。

出典:日経コンピュータ 特別レポート版
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