コマツでは、イノベーションを技術革新ではなく、「お客様に対して新しい価値を創造すること」だと定義している。先端技術の活用も大切だが、新しいビジネスモデルをつくらないとイノベーションには結びつかない。

ダントツ商品からダントツソリューションへ進化

 このような考え方の下、3つのフェーズで価値創造に取り組んできた。最初が、建設機械本体の競争力を高める「ダントツ商品」という戦略だ。「他社が数年は追いつけない特長を有すること」と「SVC(標準変動原価)で10%以上の改善が見込めること」を前提に商品開発した。こうして生まれたのが、2008年に量産化したハイブリッド油圧ショベルや15年に導入した油圧駆動式フォークリフトなどである。

 2番目が、お客様のところで稼働している機械の見える化に取り組んだ「ダントツサービス」。機械に装着したセンサーからさまざまな情報を収集・管理する「KOMTRAX(コムトラックス)」というシステムを2001年から標準搭載し、既に全世界44万台もの建設機械に使われている。

 KOMTRAXによって、バリューチェーンの中で我々の収益に結びつく領域が拡大した。盗難保険事業やリテールファイナンス事業(新興国での代金回収)、中古車の価格上昇などが収益を押し上げている。さらに、低燃費運転指導・サポートによって機械のライフサイクルコストを低減させ、お客様に新しい価値を提供した。

 3番目が、施工現場の見える化に挑んだ「ダントツソリューション」。この象徴が、鉱山で無人のダンプトラックを自動運行させる「AHS(Autonomous HaulageSystem)」だ。

 AHSは、無人ダンプトラックとその他の有人車両、そして鉱山全体のオペレーションを管理するシステムで構成し、従来よりも極めて少ない人員で運用可能になっている。このシステムを活用したビジネスは、単に機械や保守サービスを販売するだけのビジネスモデルではない。お客様とともに鉱山計画の策定やオペレーションの改善活動などを通じて現場の価値を最大化するソリューションとしてお客様と契約している。

 お客様の課題を見いだして、先端技術でそれを解決するソリューションを開発・提供する──。簡単なことではないが、今後はこうしたビジネスが重要なのだと考えている。

業界の大手だからこそ破壊的イノベーションに挑む

 現在、コマツではIoT(Internet ofThings)社会の到来に向けて、建設現場にある全ての情報をネットワークでつなぎ合わせる「スマートコンストラクション」という仕組みをつくっている。

 ドローンで測量した建設現場の情報や、設計図面、施工状況、建機の稼働履歴など、あらゆるデータをクラウド基盤に蓄積する。これらのデータを建設機械に読み込ませて整地作業などを自動化できる。

 スマートコンストラクションによって、お客様の生産性が飛躍的に向上する一方で、それは我々の建機が売れなくなることも意味する。当初は、この点を不安視する声もあった。

 しかし、我々が取り組まなくても、誰かが始める可能性が高い。最先端の技術を武器に、新規参入する「破壊的イノベーション」と呼ばれる動きだ。

 例えば、ウーバー・テクノロジーズによるライドシェアリングが広がると、クルマの販売台数と自動車メーカーの業績は落ちる。建機の世界でも、同じようなことが起こりえる。商品・サービスを販売する企業ではなく、ビジネスのプラットフォームを掌握した企業が勝者となるのだ。その前に業界の大手である我々が破壊的イノベーションのプラットフォームを築こうと考えた。

 これら一連の取り組みの中で先端技術を活用する際に、我々は積極的に外部の力を活用している。オープンイノベーションと呼ばれる協業だ。

 コマツでは、CTO(最高技術責任者)をサポートする「CTO室」という組織を設置している。この組織の役割の一つが、世界中の先端技術を調査することだ。自社のコア技術と組み合わせることによって、どのようなことが実現できるかを研究している。

 実際に、大学やベンチャー企業と積極的に協業している。重要な技術を持ったスタートアップ企業があれば、買収も考える。このほかにも、イノベーションと情報戦略の両方を統括するCIOを置いている。このCTOとCIOが協力して、将来の技術戦略やITの企画を立案している。

 現在、さまざまな領域で破壊的イノベーションが進んでいる。競争力の源泉が、いかにビジネスを展開しやすいプラットフォームを築くかということになりつつある。製造業の経営者は、自社のビジネスが破壊される前に、プラットフォーム作りに取り組むことも考えるべきだろう。

出典:日経コンピュータ 特別レポート版
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