「死ぬまでやってくれる」――。当時、元請けのITベンダーからこう評されるほど「下請け精神」が染みついていたIT企業がある。社員約160人のシステムインテグレーター(SIer)、シナプスイノベーションだ。同社はSEを客先に常駐させるSES(システムエンジニアリングサービス)事業では自社に何も残らないと「元請け」になる決を固め、今では大手ベンダーを提案コンペで打ち負かす元請けSIerに昇格した。

常態化する長時間労働、元請けは丸投げ

 シナプスイノベーションは1984年の設立以来、約30年にわたって下請けSIerを務めてきた。同社の藤本繁夫社長は「元請けが手掛ける上流工程の遅れをそのままかぶり、労働時間のコントロールは全く利かなかった。深夜残業や休日出勤は当たり前。一人当たりの月平均残業時間は200時間を超えていた」と当時を振り返る。

シナプスイノベーションの藤本繁夫社長
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 元請けからの“丸投げ”も珍しくなかった。ユーザーとの折衝やプロジェクトのマネジメントをしてくれない。追加料金をもらえない仕様変更も頻発した。だからこそ採用は新卒が中心に。「新卒なら”従順”で、下請け精神を教え込むには最適、と当時の社長は考えていた」(藤本氏)ためだ。大手ベンダーには想像しにくい理屈である。

 そんなシナプスイノベーションが客先常駐型のSES事業から脱却しようと決意したのは2005年ごろだった。大きな動機は二つある。一つは社員の経験や知識が会社に蓄積されなかったこと。客先常駐の各社員は顔を合わせる機会もなかった。もう一つは丸投げ体質の元請けへの怒りが限界に達していたこと。「離職率も高く、優秀な人材から退職する状態だった」(藤本氏)という。

 SES事業から脱却し、一括請負契約にシフトする。そう方針を立てた藤本氏らだが、現実は甘くなかった。最も大きかったのは「これまで仕事を回してくれた元請けと競合関係になること」と藤本氏は打ち明ける。新たな方針を元請けに話すと「もう仕事は回さないぞ」と脅されるケースもあった。元請けとして責任やリスクを受け入れる覚悟はあったが、これまでのしがらみを断ち切れない。「まさにイノベーションのジレンマに陥っていた」(藤本氏)」。

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