ユーザー数は100カ国強から4万5000人、実験回数は約30万回、実験に基づく論文15本──。

 米IBMが、米ニューヨーク州の研究所にある量子コンピュータを遠隔で利用できるクラウドサービス「IBM Quantum Experience」をスタートさせてから約1年。世界初となる「誰でも使える量子コンピュータ」は、当初の予想をはるかに超えるユーザーを得た。

IBMが開発している量子ゲート型の量子コンピュータ。希釈冷凍機で極低温に冷却する必要がある
(出所:米IBM)
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 IBMの量子コンピュータは「量子ゲート型」と呼ばれるタイプだ。隣り合う量子ビットを組み合わせ、半導体の論理回路(論理ゲート)のような演算を実行できる。

 古典コンピュータの論理ゲートは「0」か「1」の2値しかとれないが、量子ビットは「0」と「1」を重ね合わせた状態を保持したまま、並列して演算できる。2011年に量子アニーリング型マシンが商用化されるまでは、この量子ゲート型が唯一の量子コンピュータだった。

 IBMは2017年3月、このクラウドサービスを発展させた量子コンピュータのプロジェクト「IBM Q」を発表した。まず量子コンピュータと従来型コンピュータを連携できるAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)やSDK(ソフトウエア開発キット)を提供し、Webサービスやスマートフォンアプリを通じて量子コンピュータを自由に使えるようにした。さらにIBMは、50の量子ビットを備える新たなマシンを数年のうちに開発することを表明した。

 IBMが、量子コンピュータをクラウドサービスとして万人に提供する狙いは何か。IBM Reasrch サイエンス&ソリューション担当バイスプレジデントのダリオ・ジル氏に聞いた。

IBMが、長年の開発の成果である量子コンピュータをクラウドサービスとして一般公開したのはなぜか。

IBM Reasrch サイエンス&ソリューション担当バイスプレジデントのダリオ・ジル氏
(出所:米IBM)
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 IBMはこれまで、数十年にわたって量子コンピュータの開発に取り組んできたパイオニアだ。

 量子ゲート型マシンの分野は、この5年で驚くべき技術進化を遂げた。我々は、汎用的に使えるパワフルな量子コンピュータを今後数年で開発できる見通しが立った。

 注:IBM Researchで量子コンピュータを研究するジェイ・ガンベッタ氏によれば、ここ5年で量子ビットのデバイス品質を改善した結果、量子ビットが特定の量子状態を維持できる「コヒーレント時間」を、この5年で50~100倍となる数百マイクロ秒へと伸ばした。これにより量子コンピュータを常時安定稼働させることが可能になったという。

 そこで我々は、まず小規模の量子コンピュータをクラウドサービスとして公開し、研究者に使ってもらおうと考えた。今度登場するパワフルな量子コンピュータに備え、研究者の裾野を広げたいとの狙いからだ。

 クラウドサービスの開発に当たっては、量子コンピュータの理論研究グループと実験グループ、ソフトウエア開発者、デザイナーがチームを組んだ。2016年5月に「IBM Quantum Experience」として公開した。

「IBM Quantum Experience」で量子計算を設計する画面。5つの量子ビット間の演算を定義することで、遠隔から量子計算を実行できる
(出所:米IBM)
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 当初、私は「数百人ほどの研究者が興味を持って使ってくれるといいな」と考えていた。

 だが、結果は驚くべきものだった。100カ国以上、4万5000人ものユーザーが、我々の量子コンピュータを使って20~30万回の量子実験を行った。この1年で、実験に基づく研究論文が15本も掲載された。

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