米グーグル、米マイクロソフト(MS)、米IBM、NTT──そうそうたる企業が、新たな計算科学のパラダイム、量子コンピュータの世界に挑んでいる。

 カナダのディーウエーブ・システムズ(D-Wave Systems)が2011年に量子コンピュータを商用化して以来、研究開発競争に火が付いた。グーグルとMSは独自の量子コンピュータの開発を表明。IBMは基礎研究の3つの柱として、人工知能やブロックチェーンと共に量子コンピュータを挙げている。

 いくつかのIT企業は、開発した量子コンピュータをあえて開放し、ソフトウエア技術者に使ってもらうことで、開発コミュニティを拡大させている。IBMは2016年から量子コンピュータをインターネット経由で誰でも使えるようにし、ディーウエーブもドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)のソフトウエア技術者向けにインターネット経由で量子コンピュータを使えるようにした。

 IT企業やソフトウエア技術者を量子コンピュータの世界に駆り立てる動機には、未知の領域へのワクワク感、ゾクゾク感がある。今すぐにビジネス上の利益につながらなくても、コンピュータ科学者やソフトウエア技術者が全く無視できない面白さと可能性がある。本特集では、量子コンピュータ開発のキーパーソンへのインタビュー取材を基に、その魅力を明らかにする。

量子ビット2000個を備えた新鋭機が登場

 第1回に取り上げるのは、「量子アニーリング型」と呼ばれるタイプの量子コンピュータを開発するディーウエーブ・システムズだ。

 同社は2017年1月、量子ビット約2000個を備えた新鋭機「D-Wave 2000Q」を発表し、グーグルなどの顧客に納入した。

D-Wave 2000Qの外観
(出所:ディーウエーブ・システムズ )
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 量子ビットとは、量子コンピュータを構成する最小単位の素子のこと。「0」「1」に対応した二つの状態を取り、ときには「0」「1」が重なりあった状態にもなる。

 量子アニーリング型の量子コンピュータは、この量子ビット同士の結合度を調整することで、組み合わせ最適化問題と呼ばれる数学問題の解を導くことができる。複数の都市をすべて回る最短の経路を解く巡回セールスマン問題は、組み合わせ最適化問題の典型例だ。

 注:具体的には組み合わせ最適化問題を、物理学におけるイジング模型(格子状に並んだ原子間の相互作用を考慮した物理モデル)でエネルギーが最低となる状態を解く問題に落とし込む。そのうえで、そのイジング模型の物理状態をD-Waveマシンの量子ビットで再現し、極低温での量子ビットの状態を測定することで解を導く。

 実際に2017年3月13日にはVWが、D-Waveマシンを使ったタクシーの最適経路計算の成果を公開した。自動車メーカーが経路最適化問題を解くため量子コンピュータを使ったのは、これが初めてとなる。

 D-Waveマシンの潜在力と将来計画について、ディーウエーブ・システムズ 米支社長のロバート・エワルド氏(Robert H. (Bo) Ewald)に話を聞いた。

自動車メーカーのVWが、D-Waveマシンを使った研究に乗り出したきっかけは。

ディーウエーブ・システムズ 米支社長のロバート・エワルド氏
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 VWから話があったのは1年ほど前だ。VWグループCIO(最高情報責任者)のマーチン・ホフマン氏がシリコンバレーを訪問した際、我々のマシンを見たのがきっかけだった。我々は意気投合し、その数カ月後には共同研究の契約を結んだ。

 いくつかの研究テーマを検討した後、VWで取り上げたのが自動車の交通流の最適化だった。

 北京市を走るタクシー約1万台から取得したGPS位置情報を基に、街中のタクシーがどのような経路で進めば、最も効率的に乗客のニーズに応えられるかを解析する。組合せ最適化問題の一種だ。

 タクシーの流れを効率化すれば、乗客はタクシーを拾うまでの待ち時間が減る。タクシーも渋滞や客待ちの列でムダに燃料を消費せずに済む。

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