高齢化社会の到来で高い成長が見込める高齢者介護の市場。SOMPOホールディングス(SOMPO HD)は2015年12月、ワタミの介護事業を買収して同市場に本格参入した。IoTで施設入居者を見守り、「安心」を提供。慢性的な人手不足の解消にも役立てる。

 SOMPO HDと介護事業の関わりは、2012年9月に介護事業者のシダーへ出資したことに端を発する。2015年12月にワタミの介護事業を買収し、100%子会社のSOMPOケアネクストを設立。2016年3月に現在のSOMPOケアメッセージをグループ化し、ニチイ学館に続く業界2位に躍り出た。

 SOMPO HDは介護事業を保険事業に並ぶコア事業と位置づける。グループ全体でみた同事業の収益は、2016年度は20億円以上の赤字を見込むものの、2018年度には80億円以上の黒字転換を計画している。「安心・安全・健康を支援する企業に生まれ変わる」というビジョンを体現する事業なのだ。

 とはいえ中小事業者が乱立する介護市場の競争は厳しい。しかも慢性的な人手不足が続く。人海戦術に頼らず、独自の強みを打ち出すために力を入れるのが、デジタル技術を活用した介護サービスだ。職員の代わりに入居者を見守り、介護の品質と職員の生産性の双方を高める。

 その先兵となるSOMPOケアネクストは、1都3県の介護付き有料老人ホームのほぼ全数に当たる116施設で、2017年2月から順次、IoT機器を導入し始めた。

プライバシーを守りつつ見守る

 介護の現場では、職員の目が届かないところで事故が起こりやすい。その典型が浴室での溺水事故。入浴時は基本的に職員が介助するが、浴室はデリケートな場所なので介助を嫌がる入居者も多い。

 そこで「浴室センサー」と呼ぶIoT機器を浴室内に設置し、1人で入浴する入居者の状態を把握できるようにした。入居者の体の動き(体動)と呼吸を検知し、動きが長時間ないと異常と判定。職員のPHS端末にアラートを通知する。

 浴室センサーはマイクロ波を使って入居者の状態を把握する。「実はマイクロ波よりも映像を使った検知の方がはるかに簡単だった」と、SOMPOケアネクストの松澤豊マーケティング部部長は明かす。

 だが、カメラで撮影され続けることに抵抗を感じる入居者は少なくない。そこで松澤部長は敢えて検知の難しいマイクロ波を選び、プライバシーと安全の両立を図った。

 マイクロ波を使ったIoT機器は、入居者の部屋にも設置されている。こちらは「居室センサー」。体動と呼吸のほか脈拍も検知する。

 居室センサーは、体力の落ちた入居者の部屋に設置する。こうした入居者に対しては、介護職員が昼夜を問わず数分おきに巡回してきた。だが負荷が重いうえ、「万が一体調の急変を見落としたら」と職員にプレッシャーがかかり、ストレスも高まる。そこで居室センサーで入居者の状態を見守り、変化を定量的に捉えて職員に通報。職員の精神的な負担も取り除いた。

浴室センサーや居室センサーを使って入居者の危篤な事故を即座に検知できるようにした
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個人差をAIで学習して最適化

 ほかにも、入居者が失禁しないように見守る「排尿センサー」を導入している。膀胱近くにセンサーを装着して、膀胱内の尿量を測定するものだ。職員は、業務用のタブレット端末から現在の尿量を確認できる。尿量が増えるとアラートが表示されるので、職員が該当する入居者をトイレに連れて行く。

 以前は現場の職員がタイミングを見計らって、入居者をトレイに連れて行っていたが、トレイに行く途中で失禁してしまうことがあった。一度こうした経験をした入居者はトレイに行きたがらなくなり、おむつを装着せざるを得なくなる。入居者の心理的なダメージが大きく、介護する職員の負荷も増す問題があった。

 これを解決するのが排尿センサーだ。尿意の感じ方は人によって異なるため、その違いをAIで学習し、入居者ごとの排尿レベルを割り出す。各人の尿意の感じ方に合わせてアラートを通知するため、入居者は失禁の不安から解放される。職員にとっても、適切なタイミングで排泄介助を行えるので、精神的な負荷を軽減できる。

 介護事業にはソニーなど大手企業の参入も相次ぎ、一層の競争激化が予想される。IoTを駆使した見守りで質と効率を高め、同事業を第2の柱に育てていく。

排尿センサーを使って入居者の自律的な排尿を支援する
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出典:日経情報ストラテジー 2017年4月号 pp.28-29
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。