ISDNからの移行に苦労している別の例がEDIだ。EDIは企業間の受発注・請求支払などの伝票取引を、電子的に実現するための仕組みである(図1)。

図1●受発注の電子データ交換(EDI)でも利用されている
企業間の電子的な受発注・請求支払などの取引を実現するEDI(Electronic Data Interchange)では、ISDNを回線として利用するケースが多い。流通システム標準普及推進協議会が実施した「2015年度 流通BMS導入実態調査」の結果からも、 小売店と卸/メーカーともに、旧来のJCA手順や全銀手順、全銀TCP/IP手順が多く使われていることがわかる。
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 医薬品や健康食品の製造・販売や卸事業を手掛けるピップグループは、約500弱の小売店との間でEDIを利用している。ピップグループの持株会社であるフジモトHDで執行役員 情報システム室長を務める松本 寿一さんは、「IP網に対応した通信手順も使われるようになってきたが、アナログ回線やISDN回線を使うJCA手順など、旧来の通信手順がまだ多く使われている」と話す。

 同社の場合、旧来の通信手順ではJCA手順や全銀手順、全銀TCP/IP手順などを使っている。これらを導入している企業はISDN回線を使うことが多い。「ISDN終了に向け通信手順を変更しなければならないが、これがとても大変」(松本さん)。EDIの切り替えは小売店1社ずつとスケジュールを合わせて取り組まなければならない。事前調整から利用開始までは1カ月ほどかかる。

 松本さんは、「当社の場合、すでに10%強の取引先はIP網に対応した流通BMSやWeb-EDIなどに移行している。残りの取引先の移行が2020年度後半の切替直前に集中すると、間に合わない取引先が出てくる。今後移行する取引先数が平準化すればぎりぎり対応できそう」と話す。

 警備関連のサービスも移行には時間を要する。ISDNは家屋やビルの警備でも使われている。警備保障会社のセコムでは、警備システム全体の1割前後が、センサー情報をセンターに送信する際にISDNを利用しているという。

 ISDNからの移行先の候補は、「光回線を含むブロードバンド回線+無線回線」や通信事業者2社の無線回線を使う「デュアル無線回線」。2回線を用意するのは冗長化のためだ。移行に当たっては、システムの一部または全部の機器を交換する工事が必須なので、十分な移行期間が必要だという。

 銀行のシステムも移行に苦労している。企業向けの決済サービスであるエレクトロニックバンキング(ファームバンキングともいう)では、三つのメガバンクだけでも約10万件の利用者がいるからだ。全国銀行協会は、機器の準備やソフトウエアの変更、テストに時間やコストがかかるため、2020年度後半までに移行を完了させるのは困難と説明する。

▼EDI
Electronic Data Interchangeの略。EDIでは企業間で特定の通信手順に従って、決められた形式のメッセージをやり取りする。通信手順ごとに物理層の仕様も定められている。
▼JCA手順
流通業界向けに受発注データをやり取りするために作られたプロトコル。チェーンストアの本部と問屋などの取引先との間で伝票データをやり取りする目的で開発された。1980年に制定されたJCA手順は物理層に電話回線(2400ビット/秒)とDDX-C回線(9600ビット/秒)、1991年に制定されたJCA-H手順はISDN(64kビット/秒)と専用線(64kビット/秒)、1997年に制定されたJCA-H手順(LAN対応)はイーサネットなどを使うよう定められている。
▼全銀手順
1983年に全銀協(全国銀行協会)が制定した全銀協標準通信プロトコルのこと。銀行と企業の間での振込依頼や明細書などの交換をオンライン化するために作られた。
▼全銀TCP/IP手順
1997年に全銀協が制定したプロトコルで、従来の全銀手順をTCP/IPで利用できるようにしたもの。
▼流通BMS
BMSはBusiness Message Standardsの略で、流通ビジネスメッセージ標準のこと。小売店や卸、メーカーが受発注する際に使用するプロセスやメッセージを共通化したEDI標準仕様。
▼Web-EDI
インターネットを使い、Webブラウザーの操作で受発注のやり取りを実現するEDI。様々なプロトコルがある。
▼1割前後
残りは光回線や無線などを使用している。一部ではアナログ回線も使われている。

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