ITデューデリジェンス(資産査定)とは、主にM&A(買収・合併)の際に、買収先企業の情報システムを調査することを指す。買収先が、保有するIT資産の状況を正確に把握することで初めて、新会社発足日(Day1)までのシステム改修や、将来的なシステム統合(Day2)の計画が立てられる。しかし、ITデューデリジェンスの重要性は、十分に浸透しているとは言い難い。

 本特集では全5回にわたり、ITデューデリジェンスの「いろは」を解説する。最終回は、ITデューデリジェンスに臨むIT部門を取り巻く苦しい実態を紹介する。M&Aという突発的なイベントで苦しい状態に陥らないためには、日々の意識改革がIT部門に求められる。(編集部)


 少し前の話になるが、製造業A社による事業買収があった。同社は基幹系システムを稼働させていたメインフレームの空きリソースを利用してバーチャルマシンを作成、買収先企業のシステムをコピーして稼働させた。事業買収の場合、買収先企業が存続するため、同一の情報システムを別途構築しなければならないからだ。

 ただしこれは、ITデューデリジェンス(資産査定)を基にしたものではなく、その場しのぎの現場の判断だった。その結果、A社は迷走に次ぐ迷走に陥る羽目になる。

 当初は問題なく運用していたものの、ほどなくしてセキュリティの問題やライセンス使用権の問題に直面。同じメインフレームをもう1台購入する羽目になった。さらに、今まで保守・運用を担ってきた買収先のIT要員を自社に取り込めなかったため、A社は急遽、ITベンダーと運用保守契約を締結する。これらは全て、当初の計画になく、想定外のコストがどんどん膨らんでしまった。

 慌てたIT部門は、膨らんだコストを圧縮するため、インドのオフショアベンダーへのアウトソーシングを決断する。しかし、システム設計書がなかったためにオフショア先に仕様を十分に伝えることができず、システム改修の度に不要な新規プログラムを作成することになり、運用保守効率が著しく低下した。最終的には委託先を国内のITベンダーに戻し、さらに余計な引き継ぎコストを支払わなければならなくなった。まさに踏んだり蹴ったりである。

 これまでで解説してきたように、M&A(買収・合併)に伴うシステム統合において、ITデューデリジェンスは欠くべからざる要の作業だが、その重要性が浸透しているかというと「ノー」だ。世の中には、M&Aに関する解説書が星の数ほど存在するし、デューデリジェンスに触れてあるものも多い。しかし、ITに関するデューデリジェンスという観点はすっぽりと抜け落ちている。

 その理由として、システム統合の失敗が外から分かりにくく、表面化しにくいことが挙げられる。ある企業のITが止まろうとコストが肥大化しようと、社外にその事実が出ることはまれだ。A社のような事例が世に知られることはほとんどなく、それゆえにITデューデリジェンスの重要性が理解される機会も少ない。ひどい場合、コストの肥大化を当事者自身が十分に認識していないことすらある。

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