ITデューデリジェンス(資産査定)とは、主にM&A(買収・合併)の際に、買収先企業の情報システムを調査することを指す。買収先が、保有するIT資産の状況を正確に把握することで初めて、新会社発足日(Day1)までのシステム改修や、将来的なシステム統合(Day2)の計画が立てられる。しかし、ITデューデリジェンスの重要性は、十分に浸透しているとは言い難い。

 本特集では全5回にわたり、ITデューデリジェンスの「いろは」を解説する。第1回は、M&Aがどのような流れで進んでいくのか、概要を解説する。IT資産をいわば“鑑定”する作業であるITデューデリジェンスはM&Aにおいて欠かせない作業だが、自社のIT資産を調査する際などにも、その方法論は役に立つ。学べるところは多いはずだ。(編集部)



 「今度、A社の一事業を買収することになった。IT部門として対応すべきことがあると思うので、よろしく頼む。正式発表するまでは、他言しないように準備を進めてくれ」――。こんな依頼が突然舞い込んでくることを想像してほしい。IT部門が買収前に整理すべきこと、買収後にやらなければならないことは、実は山のようにある。しかし、取り組むべき作業をすぐに思い浮かべられる読者は少ないのではないだろうか。

 ここ数年、日本企業によるM&A(買収・合併)が盛んになっていることもあり、「海外企業から事業譲渡を受けて新会社を設立するのだが、情報システムの統合をどうやって進めればよいか教えてほしい」(某製造業)、「同業他社を買収する計画があるのだが、IT部門として何をすべきか分からない」(某医療メーカー)といった相談が寄せられるケースが増えている。

 「M&A(買収・合併)なんて自分の会社では滅多にあることではないし、いざあったとしても経営陣や経営企画部門の仕事。自分には関係ない」と思うかもしれないが、あなたが勤める会社がいつM&Aや事業統合に踏み切ってもおかしくはない。その際に、IT部門の果たすべき役割は、ことのほか重大である。経営陣や経営企画部門には、ITに関する土地勘がないからだ。

 例えば、M&Aの評価に際して、ある時点での資産コスト(CAPEX)や運用コスト(OPEX)だけを見ていると、システム統合時の改修コストや構築コストが漏れ、当初計画と大幅なギャップが生じる危険がある。買収先がITベンダーに支払っているソフトウエアライセンス料金などが、合併によって変更になる可能性もあるだろう。セキュリティ基準を統一するための追加コストも見込まなければならない。

 経営層や経営企画部門に、こうした観点を求めるのは難しい。M&Aや事業統合において、IT部門は重責を担っているわけだ。タイミングの早い遅いはあっても(往々にして遅い場合が多いのだが)、必ずお鉢は回ってくる。企業規模の大小を問わずM&Aが当たり前になりつつある中、IT部門にとっても人ごとではなくなっている。

 そこで、事業のみの買収を含めたM&Aを進めるに際して「ITデューデリジェンス(資産査定)」や「統合計画」について、進め方や注意すべきポイントを解説していく(図1)。これらにうまく対応できるかが、M&A全体の成否を左右するといっても過言ではない。

図1●M&AでIT部門が果たす役割
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 ITデューデリジェンスと統合計画の策定はM&Aにおいて極めて重要な工程だが、その認識は浸透しておらず、後回しにされることが珍しくない。売上高に占めるITコストが一般に1%前後と、それほど大きくないことが理由として挙げられる。

 さらに、M&Aを主導する経営企画部門やアドバイザリー会社にITの知見を持つ人間がおらず、見過ごされがちであることも一因だ。結果、後になってIT部門が右往左往することになる。

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