デジタルテクノロジーは言語、文字、印刷と並び、人類にとってエポックメーキングなテクノロジーの進化だ。米国の人工知能研究の世界的権威、レイ・カーツワイル氏は著書「ポスト・ヒューマン誕生」の中で、次に来る出来事として「GNR革命」を挙げる。GNRとは遺伝学(Genetics)、ナノテクノロジー(Nanotechnology)、ロボット工学(Robotics)の頭文字。GNR革命は、3つの技術の発展によって人類社会が大きく変わることだ。そう遠くない将来、コンピュータによって生み出される人工的な知性が人類の知性の総和を超える「特異点」を迎える。人は死なずに済む不老不死も夢ではないという。

 デジタルテクノロジーによって価値創造の世界観が大きく変わってきた。これまでの世界観は、企業が価値を生産し、顧客がそれを購買し、価値を消費するGDL(Goods Dominant Logic)だった。これからはSDL(Service DominantLogic)に基づき、企業は価値を提案し、企業と顧客がその価値を共創するようになる。価値は消費するものではなく、使用を通じて生まれるものになる。

価値創造プロセスも変わる
オープンコラボと短期サイクルに

 価値創造のプロセスはGDLとSDLとでは全く異なる。GDLでは品質を最重視するため、自前主義を採用した。アイデア・分析・評価・計画・システム・実行というプロセスをたどり、サイクルを2~5年で回して価値を創造する。これに対し、SDLではスピードを重視するため、自前主義を捨て、代わりにオープンコラボレーションを採用する。PDCAサイクルは1~2週間で回し、常に新しい価値の創造を続ける。

 価値創造のモデルも異なる。GDLではプロセス、手順書を重視したアルゴリズムに立脚した価値創造モデルだが、SDLでは試行錯誤、臨機応変を重視したヒューリスティックの価値創造モデルにならざるを得なくなる。

 大量生産・大量消費によって日本の高度成長を支えたアルゴリズムの価値創造モデルでは、利益の拡大が会社の発展と考えた。利益志向、効率追求を目的に掲げ、モノ、品質、ヒト、カネを管理の対象と考え、それを実現する仕組みを重視した。これに対し、ヒューリスティックの価値創造モデルではヒトを中心に置き、個人の成長を重視し、結果として会社が発展する。このため、個人の能力開発に力を入れ、能力を評定する。

 アルゴリズムとヒューリスティックの違いを端的に示す一例が人材への考え方だ。アルゴリズムではヒトは人材で、コストと考えるが、ヒューリスティックでは人財と評価し、アセットと位置付ける。コストは削減の対象だが、アセットは活用の対象になる。

 価値創造という視点だけでなく、イノベーションという視点で考察してみる。イノベーションについて様々な定義があるが、私がいちばん納得するのは慶應義塾大学名誉教授の井関利明氏によるものだ。それは「生活に、新しいものを取り入れる」「生活者にどんな新しい経験を約束できるか」「仕組みの連動が不可欠」といったポイントに集約できる。アルゴリズムの価値創造モデルではイノベーションは低調で、日本経済は「失われた25年」に陥ったが、ヒューリスティックの価値創造モデルではイノベーション創出が容易になる。

 ヒューリスティックの価値創造モデルでは、試すことができなければ機能しないため、管理重視の階層型組織はなじまず、ヒトや能力が有機的に連携するフラットなネットワーク組織が適する。モバイルなどの活用でワークライフバランスの適正化を図るとともに、アイデアが出やすい環境を整え、オープンコラボレーションを促す。

価値創造の世界観

世代ごとに異なる価値観
従来の階層型管理は限界

 ヒトの変化も見逃してはならない。1945~65年生まれのベビーブーマー世代はモノ志向が強く、競争するDNAが染み付いているが、80~95年生まれの「Y世代」は協働DNAと成長志向を持ち、95年以降に生まれた「Z世代」には地球課題解決と貢献志向がある。世代の価値観が異なるため、階層型管理は向かず、世代間のコラボレーションが不可欠だ。

 人財の発掘・育成は経営者の重要な責務だ。階層型管理方式では貴重な人財が組織内に埋もれてしまう。社員が管理の対象から活用の対象に変わることで、欠点・弱点ではなく長所・強いところを発見できるようになる。起業家精神とネットワーク力を持ち、企業や社会を変革する力を持つアグリゲーターが出現できる環境の整備は経営者の責務だ。それは、多様性を認め、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すダイバーシティー経営に通じる。

 当社は、これまで顧客の課題解決に力を注いできたが、当社自身がアグリゲーターとなり、顧客と共に経営戦略を描いてビジネスモデルを設計し、顧客のお役に立ちたい。