IBMは2002年から毎年、経営者へのインタビューから得られた知見をまとめた「グローバル経営層スタディ」を公開している。2016年版では世界の5247人(日本人は576人)の経営者や役員にインタビューを実施した。

 一連の調査では、CEO(最高経営責任者)の関心事として、2012年以降トップの座を占めているのが、「テクノロジー」だという事実が興味深い。2002年時点では6位だったが、年を追うごとに順位を上げてきた。

 この背景にはIoT(モノのインターネット)の存在がある。IoTの進展によってネットワークにつながるデバイスの数が急増し、1950年時点では5000台にすぎなかったが、2014年時点で100億台に達し、生成されるデジタルデータも爆発的に増えている。

 データの大半は非構造化データだが、これを分析するテクノロジーも進化している。従来のコンピュータでは非構造化データの分析は難しかったが、IBMの「Watson」のように非構造化データを含む莫大なデータを分析・解釈して意味を引き出すコグニティブテクノロジーも登場した。コグニティブテクノロジーによるデバイスのスマート化が、さらなるIoTを推進し、それがさらなるデータ量の増大をもたらし、データ量の増大がさらにコンピュータを賢くする。この3つの要因の相乗効果が、社会を変えていく。企業はこの変化を機会として捉える必要がある。

 今社会で起こっていることを象徴しているのが、ソニーの社長兼CEOである平井一夫氏の次の言葉だ。「破壊的なテクノロジーが、事業のファンダメンタルを変える可能性がある。それがオープンな形で普及すれば予測できない影響が出る」

 この言葉を、「グローバル経営層スタディ」の2016年版の冒頭でも紹介している。

IoT時代の競争環境にはX・D・P・Hの4つの戦場がある

 IoTが進展した世界における競争環境では、(1)X(エクスペリエンス、顧客体験)、(2)D(データ資源)、(3)P(プラットフォーム)、(4)H(ハードウエア)──という4つの戦場がある。X(顧客体験)は、それがB2Cであれ、B2Bであれ価値ある体験を顧客に提供することをめぐる戦いだ。D(データ資源)は、価値のあるデータ資源の権益をめぐる戦い。P(プラットフォーム)は、ユーザーとサービス提供者が一堂に会する場所を取り合う戦いだ。H(ハードウエア)をめぐる戦いは以前からあるものだが、そこにフィジカル空間とデジタル空間との接点を押さえるという意味が加わった。この中でもPの提供者、すなわちプラットフォーマーになることができれば、それが有利に働く。プラットフォームを押さえれば、データ資源の権益を押さえることに直結するからだ。

IoTの主戦場と3つの定石

4つの主戦場の3つの定石
あと数年で業界の境界線が消滅へ

 これら4つの主戦場で戦い抜くためには、3つの定石がある。

 1つ目が「H-D-X」戦略である。ハードウエアから上がってくるデータ資源を活用して新しい顧客体験を作る。代表例がコマツの「KOMTRAX」である。ただし、プラットフォーマーにはなりにくい。

 2つ目が「X-D-P-H」戦略。便利なeコマースといった顧客体験から入ってもらって、個々のユーザーの振る舞いといったデータ資源をためてプラットフォーマーになる。さらに面白いハードウエアを出して、顧客体験を高めていく。この戦略を採っている企業の代表例が米アマゾンである。

 3つ目は、「Buy(D)」戦略である。価値のあるデータ資源を持っている会社を買収してしまうやり方である。米IBMも、気象データを持つ会社を買収している。米マイクロソフトもビジネス特化型のSNSである米リンクトインを買収した。

 新規のプラットフォーマーによる既存ビジネスへの参入は、これから様々な業界で起こる。新規参入者には、大きく「アンクルバイター」と「デジタルジャイアント」の2つのタイプがいる。アンクルバイターは直訳すれば「かかとをかむ者」のこと。「小さな企業にかかとをかまれたら、いつの間にか体に毒が回って脅威になっていた」ということが起こり得る。代表的なアンクルバイターは宿泊施設業界における「Airbnb」などである。一方のデジタルジャイアントは、ある分野のプラットフォーマーが巨人化して業際を超えて事業を展開するタイプのこと。米グーグルはモビリティサービスのプラットフォーマーとなることを狙っている。

 グローバル経営層スタディの調査結果では、経営者の70%が「今後数年間で業界の境界線が消滅する」と見ている。こうした競争環境で勝ち抜くためには、新しいことにチャレンジする姿勢が必要になる。