これからの企業経営を語るうえで、デジタル化は避けて通れない。Webブラウザーの草分け的存在といえるNCSAMosaicの開発に携わったマーク・アンドリーセンは、最近、「ソフトウエアが世界を食べている」と雑誌で発言していたが、これはデジタル化の本質を的確にとらえている。実店舗を持たず世界最大の小売業者になったアマゾン・ドット・コム、自動車の概念を変えたテスラモーターズ、車を1台も所有せずに世界最大のタクシー会社に躍り出たウーバー・テクノロジーズは、デジタル化を象徴する。

 デジタル化はIT業界にも及ぶ。当社の調べでは、アマゾンの売り上げは前年比で約20%増え、IBMやヒューレット・パッカード(HP)とそん色ない規模に達する。クラウドサービスを提供するアマゾン ウェブ サービス(AWS)に至っては対前年比81%の増加だ。

プラットフォーム提供企業とそれを活用する企業が共存

 米国では、第3世代プラットフォームという言葉をよく聞く。ITの世界では、第1世代はメインフレーム、第2世代はクライアントサーバーシステムで、第3世代はモバイルとクラウドだ。IT業界では生き残りをかけて競争が激化しており、第2世代の勝ち組企業が既存資産を生かし第3世代へと変革を図る一方で、第3世代企業は第2世代の敗者を飲み込む動きを見せている。

 第1世代から第2世代への変化に比べ、第2世代から第3世代への変化は次元が異なるほど大きい。モバイルによって誰もがいくつものデバイスを所持し、24時間の常時接続で使えるようになった。クラウドによってアプリケーション同士の連携が図れ、ビジネスとビジネスの連携も容易になった。米国では、第3世代プラットフォームはクラウドサービスをベースにした新しいビジネスモデルをサポートする環境全体を指す。プラットフォームを提供する企業と、それを活用してビジネスを展開する企業が共存するエコシステム(生態系)への関心が高まっている。

 こうした中で、世界の有力IT企業はどう対応しているのか。ソフトウエア研究開発への投資拡大はその1つだ。当社の推計では、アマゾンが2015年にクラウドなどに投下した研究開発費は約1兆2500億円に及び、同時期のIBMの研究開発費のほぼ2倍になる。1基あたり3000億~4000億円といわれる原子力発電所を年間4基も建設できる金額だ。ソフトウエアに積極的な姿勢はアマゾンに限らない。当社の推計では、毎年、マイクロソフトは1兆2000億円、オラクルは5500億円、フェイスブックは4800億円をソフトウエアの研究開発に費やしている。

 もう1つの対処は、クラウドをベースとするエコシステムの形成だ。第1世代と第2世代のIT企業では、know who(重要顧客は誰か)とknow how(顧客の課題解決にはどうすればよいか)が重要だ。パブリッククラウドの普及で利用者が数億人から十数億人へと膨れ上がるにつれ、know whoとknow howを社内に築き上げるよりも、クラウドサービスと連携するエコシステムが有利になり始めた。Facebookの利用者は17億人、Androidのユーザーは15億人に達しており、顧客を囲い込むよりも、クラウドの利用者に向けてビジネスを展開したほうが手っ取り早くて確実だ。

 世界有数の動画配信業者のネットフリックス(NETFLIX)とAWSの連携はその好例だ。ネットフリックスの自主制作費用は年間50億ドル、アマゾンの研究開発投資は125億ドル。両者が手を組むことで、全米TV視聴時間の10%、全米ネットワークトラフィックの30%という巨大ビジネスが可能になっている。

第3世代プラットフォームのコアテクノロジー

日本のIT企業の課題は研究開発費の低さに

 デジタル化の波に日本国内のIT産業も無縁ではいられないが、今の状況を見る限り、第2世代までの対応とほとんど変わってはいない。日本の大手IT企業の売り上げはリーマンショック前を超えたが、2000年から始まった電子政府・マイナンバー制度と2006年以降の大手金融機関のシステム更新・維持が日本の大手IT企業を支える構造は全く変わっていない。

 ソフトウエアの時代に乗り遅れる日本のIT企業を象徴するのが研究開発費の低さだ。米国の大手IT企業の研究開発費は売上高の12%から25%を占めるのに対し、日本の大手システムインテグレーターは1%から6%にとどまる。

 日本のIT企業が生き残るには、ソフトウエアの研究開発費を十分に確保する必要がある。また、社内のknow whoやknow howに頼るのではなく、クラウドから洞察を引き出すための独自のソフトウエアを開発することも大切だ。

 デジタル化の波による変化に積極的に対応し、不確実性を意識しながら新たな価値観をベースに発想していけば、生き残ることは決して難しくない。