「デジタルシフト」の本質を考えてみたい。会場の皆様にご覧にいれた映像は、人工知能を使って、ロボットがブランコのこぎ方を学習する様子である。全くの白紙の状態から、わずか5分でブランコを高くこげるように学んだのだ。人間とは比べものにならないくらい習熟スピードが速い。デジタルシフトの本質は、「データを活用して短いサイクルで改善を繰り返す」ことにある。

経験や勘に頼る業務もデジタルシフトへ

 どのような領域でデジタルシフトが起こるのか。企業の業務を「定型作業」「非定型作業」「知的労働」の3つに分類して考えてみたい。

 定型作業では、例えば1日の生産台数といったデータで成果は計測できるし、作業時間や組み立て時間のデータによってプロセスを計測することも可能だ。

 非定型作業は、営業のような業務で、成果はデータとして計測することが可能だ。成果は売り上げなので、一目瞭然だろう。しかし、なぜ売れたのかは容易には分からない。お客様へのお土産が決め手になったのか、それとも営業担当者の笑顔が効いたのか。これらは、データには表れないので、よく分からないというのが実情だろう。

 最後の知的労働とは、研究開発のような業務で、成果やプロセスを直接表すデータがないため計測が困難だ。

 業務の中でデータには表れない部分は、経験や勘に頼っている。こうしたノウハウが属人化してしまうと、若い人も育たない──。こんな悩みを抱えている企業もあるのではないだろうか。実は、IoT(モノのインターネット)の進展によって、「経験や勘」といった領域もデータとして捉え、改善できるようになってきた。

デジタルシフトで何がどう変わるのか

デジタルでアイデアを試し改善を繰り返す

 デジタルシフトの具体的な事例を紹介しよう。多品種生産を行っている日立グループのある製造現場では、作業進捗を把握し全てを効率的に生産する計画調整に非常に時間がかかっていた。しかし、各工程の作業実績データをクラウド上に集約したことで、生産現場の状況の把握が容易になり、膨大なデータを効率的にシミュレーションすることで最適な計画見直しと生産ラインへフィードバックをする。これにより状況把握から計画の見直しまでに要する時間をそれまでの20分の1以下にできる。

 そして、自社の取り組みの中で育んできた技術やノウハウをお客様にも提供し、大きな成果が出始めている。

 例えば、新日鐵住金とトライアルした事例がある。同社では製鉄工程の中で注文に応じて、様々な厚さの板や棒などの鉄鋼製品を作っている。どの製品を、どの順番で生産すると効率がよいかという生産計画の立案作業は非常に複雑なものとなっている。設備や納期、コストなどの条件が複雑に絡み、熟練者しか担当できなかった。そこで、人工知能を活用して、熟練者の作業のデジタル化に取り組んだ。システムが提案した生産計画と、熟練者が見直した生産計画を蓄積して、学習していくという仕組みだ。この結果、約8割はそのまま使えるレベルまで再現することができた。

 ホワイトカラーの仕事のデジタルシフトにも取り組んでいる。日立では約10年前から、ウエアラブルセンサーを使って人の動きのデータを測定している。これを分析した結果、仕事中のコミュニケーションの量や質、体の動きが、集団の幸福感と強い相関があることが分かった。さらに追跡調査を実施したところ、彼らの幸福感が業務の生産性と強い相関があることも判明した。ここで蓄積したノウハウや技術を、お客様のコールセンター業務に適用。人工知能を活用することで休憩中の会話の活発度と受注率が相関することが導き出され、休憩時に会話が活発になるチーム編成に変更したところ、受注率が13%向上した。

 お客様による活用はさらに広がっており、日本航空ではワークスタイル変革を進める中で、従業員満足度との関係の発見に取り組んでいる。三菱東京UFJ銀行においても業務の生産性向上への取り組みとして、本技術の活用検討を進めている。

 デジタルシフト加速に向けた取り組みとして、日立はIoTプラットフォーム「Lumada」やお客様との協創を支えるプロセス、ツール群「NEXPERIENCE」を整備した。Lumadaは、様々なデータを活用し、パートナーと一緒にアイデアをすぐに試し、業務に組み入れて改善していくことができるプラットフォーム。NEXPERIENCEは、会議やディスカッションをデジタル化し短時間でのアイデア創出、議論の加速を実現する。

 ある分野でのデジタルシフトの取り組みを別の分野で活用する「かけ算」によって、全く新しい価値を創出できる。デジタルシフトで様々なアイデアを試し、改善のスピードを上げていくことがイノベーションにつながるのである。