「田中(達也)社長がマスコミの前で話すと、決まって株価が下がる。しかし、今回は東証3営業日だけに限り10%、58円上がった(4日目から下降)。お荷物のPC事業を中国レノボへ売却するという単純明快さが受けた結果だ。だが、中核事業のソリューションテクノロジー(テクソル)に関しては、いつも通り具体性に乏しい。特にグローバルが問題だ。PC売却話がなかったら株価は下がったはず」。こう話すのは、ある富士通子会社の役員兼株主だ。富士通の時価総額は3日間で1200億円増加し1兆2800億円。グローバル展開で競うNTTデータに2440億円の差に詰め寄った。

 子会社の役員が“問題”と指摘したサービス事業の2015年度海外売り上げは1%減の1兆832億円。対するNTTデータの海外売り上げは12%増の5196億円である。しかし、これに3月末で買収が決まった米デルテクノロジーのサービス部門を加えると海外売り上げは約8400億円となり、富士通に2400億円差と肉薄する。仮に2016年度に富士通が横ばいでNTTデータが前年並みに12%伸びたら、その差は1400億円。2017年度にグローバルサービス事業規模で一挙逆転も視野に入ってきた。

グローバルは儲かっていない

 国内で強いとされてきた富士通の弱点は、十数年前からいつもグローバルだ。「海外を何とかしなければ」のかけ声は耳タコである。去る10月27日、富士通の田中社長は推進中の経営方針の進捗レビューの中で、海外展開については「グローバルでの存在感を高める」と強調したものの、そのために何をやるかについての具体策にまでは踏み込まなかった。もっぱら国内におけるデジタルビジネス事業の強化説明に時間を費やした。

富士通の歴代社長就任初年度の実績
注)連結外部売上高:顧客の所在地を基礎とし、国または地域に分類した売上高。(1)EMEIA(欧州・中近東・インド・アフリカ) 、(2)アメリカ(米国・カナダなど)、(3)アジア太平洋(中国、シンガポール、韓国、オーストラリアなど)
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 それもある面ではうなずける。歴代社長の就任初年度の実績(表1)を見ると、強いとされる国内事業も秋草直之社長3期目に当たる2000年度の3兆9365億円(外部売上高)をピークに下降し続けている。田中社長就任初年度である2015年度は2兆8450億円とピーク時から28%も目減りし、国内におけるプレゼンスにも危機意識が忍び寄る。とは言っても富士通の国内売り上げはNEC全社を上回るほか、国内事業の営業利益はおおむね2000億円台を確保している。だがそれも、ピークの2000年度に比べ38%の減だ。田中社長はフランチャイズの国内事業でも巻き返しを図らねばならない。

図1 富士通の地域別営業利益率比較(連結決算)
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 表1や図1に示す地域の営業利益や営業利益率で一目瞭然である。グローバルは儲かっていない。そのため田中社長は欧州の事業再編を1年前に発令した。社長就任初年度の2015年度中にビジネスモデル変革のために投じた415億円の構造改革費の86%、359億円をテクソルに投下した。テクソルは全社売り上げの69%、営業利益の154%を占める中核事業である。359億円のうち86%、307億円はテクソルの欧州や北米の人員削減と構造改革というグローバル事業の立て直しに費やしている。

 2016年度も「450億円をビジネスモデル変革に投じる」と田中社長は継続を公言した。そのうち約300億円は国内外のデジタルビジネスを見通したビジネスモデル変革のための直結投資だ。残り150億円の多くは、おそらくテクソル海外事業の構造改革に継続投資すると見られている。

 海外事業は、例えば1990年に80%出資し、1998年に100%子会社化した英ICL(現在の富士通サービスホールディングス:FS)は、喉に刺さった小骨のようなものだった。かつて富士通国内社員のボーナス時期になると資金がICLの事業補填に拠出され、「受け取るボーナスが目減りした」と中堅どころが嘆いていたほどだ。関係者によると、これまでの25年間で富士通サービス(旧ICL)に費やした資金は1兆3000億円強に上る。年平均約500億円で「日立製作所やトヨタ自動車、パナソニックならとっくに見限って売却しているはずのお荷物」(前出の富士通子会社役員)という。

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