システム構築費用において「とりあえず入れておこう」といった感じで、甘く見られがちなものにマニュアル作成費用がある。システムにはマニュアルは必ず付いてくるという意識の発注者が多いのは確かだし、ベンダー側も標準的な費用項目として考えている。

 だが、見積もり段階で納品物としてのマニュアルの具体的な完成イメージを持っている発注者はめったにいない。それどころか、操作マニュアル、運用マニュアル、業務マニュアルといった使用目的が異なるマニュアルの区別が曖昧なまま、見積もり金額だけで発注を決めるケースが多いようだ。

 見積もり金額で決めるというのは、「安い」と感じた場合だ。例えば「操作マニュアル20万円」といった見積もりなら、あまり迷わずに丸投げ的に発注してしまう。ところがベンダーが20万円で作成するマニュアルは画面のハードコピーを取って、そこにちょこちょこと注釈を加えただけのものだったりする。発注者はマニュアルといえば、漠然と市販ソフトウエアに付属しているようなものを思い浮かべるので、そのイメージと納品されたマニュアルのギャップを見てあ然とする。

 一方、ベンダーでマニュアル作りを担当するのは若手SEであることが多い。マニュアル作成の経験もノウハウもない。そして、20万円の売り上げだから作成に使える時間は30時間程度と計算すればハードコピーの切り貼りが、スキル的にも時間的にも限界なのだ。もし、本格的なマニュアルを発注者が希望すれば、専門業者の仕事となり、見積もりは数百万円の単位になる。そうなると、よほど大きなシステムか、あるいは整備されたマニュアルが必須の環境でなければ、簡単にはオーダーできない。

 一番大きな問題なのは、多くのマニュアルが実際にはあまり使用されないことだ。特に操作マニュアルというものは、新システム本番稼働前の操作研修でしか使われないことも多い。前述のように切り貼りレベルの粗末なマニュアルが多いこと、システムのユーザーインタフェースが向上しているので、マニュアルを読むよりも実際に操作したほうが分かりやすいことの二つの理由があるだろう。

 本当に必要なマニュアルがあるとすれば、運用マニュアルと業務マニュアルである。このうち運用マニュアルはクラウドサービスを利用するなど運用を外部に委託すれば、不要となる。

 最後に残るのは業務マニュアルである。これは業務を遂行する視点で書かれたマニュアルであり、システムを利用して行う業務だけでなく、手作業や外部委託作業も含めて業務全体の流れを説明するマニュアルだ。この業務マニュアルはエンドユーザーにとっては有用性が高く、作る意味も大きい。ただし、この業務マニュアルはベンダーだけでは作成できない。要件定義と同様に、業務内容と手順に精通し、判断を下すことのできるユーザーの参加が欠かせない。

 何を目的としたマニュアルなのか?完成イメージはどんな感じか?本当に必要なのか?代替手段はないのか?必要なら誰が作るべきか?見積書でマニュアル費用という文字と金額を見たら、発注者は真剣に考えるべきだ。

出典:日経SYSTEMS 2017年2月号 p.8
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