筆者はPMOでプロジェクトマネジメント関連の技術開発を生業としている。そのため業界や他業種の動向に敏感にならざるを得ない。プロフェッショナルにとっても「他者から学ぶ」ことは非常に重要だ。

 9月上旬、広島県で開催されたプロジェクトマネジメント学会の秋季研究発表大会に参加した。同学会の理事を務めているので毎回参加しているが、今回は論文を書いて発表した。

 自身で発表するのは6年半ぶり。この大会のプログラムは、キーノートと、学会員が研究成果を発表するセッションで構成され、後者は約80件の発表があった。

 筆者の論文もこの中の1件だ。プロジェクトマネジメントの世界は、机上で考えて新しいものが出てくるわけではない。現場で起こっていることがベースになるので、皆が自分の経験を基に考えたことを持ち寄り、議論する。こうした機会は大変貴重だ。

 筆者の発表タイトルは「ITプロジェクトのロスコスト・マネジメント」。ロスコストとは「本来発生すべきでない費用やムダな費用」と定義している。ロスコスト・マネジメントは、ロスコストを削減するための一連の活動を指している。

ITの世界を離れて見えてきた

 筆者は2000年代の後半に、1年半だけITの世界を離れ、日立グループ全体にプロジェクトマネジメントを普及させる仕事をしていた。プラントや鉄道車両、昇降機、AV家電、産業機械、自動車機器などの分野だが、そこで日常的に使われていたのが、IT系では聞き慣れない「ロスコスト」という言葉だった。通常、この言葉から想像するのは、社外事故対応で使った費用、設計不良による手戻りだが、安値売却損や無償サービスなども含まれる。

 こう考えると、ITプロジェクトでよくある対価をもらえないスコープ変更も、理由はともあれロスコストとして捉えたほうがよいのではないかと思い始めた。そして2010年、IT関連の職場に戻ってから、システムソリューション部門への適用方法を検討し、技術開発を進めてきた。

 プロジェクトの現場では、論理性よりも実用的なアイデアや実践的な経験が役に立つ。他者や優れた先輩からのアドバイスは重要だが、意外と活かすのが難しい。ともすれば「ロスコスト?あれはハードウエアのものづくりで使う技術」とか「よい事例だけど金融関連だからできる。製造業ではムリ」とか決めつけて自分には関係ないと思ってしまう。これではあまりにももったいない。

 学会のような社外のコミュニティー活動の場合は、さらに幅が広がる。発表する人、参加する人のバックグラウンドはさまざまだ。学識経験者、企業人、学生もいる。企業人といっても業種や企業規模、企業文化、用語なども異なるし、個人のキャリアももちろん違う。そもそもプロジェクトの事例は二つとして同じものはない。

 こうしたときに筆者が心掛けているのが「異中の同、同中の異」という視点で物事を見ることだ。「異中の同、同中の異」は、違うように見えるけれどもここは同じ、同じ(あるいは似ている)ように見えるけれどもここは違う、という意味だ。まず、取り入れたいと思うこと。そして同じに見える理由、異なる理由を考えると、より学びが深まるはずだ。

出典:日経SYSTEMS 2016年10月号 p.114
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