LTEのIoT向け通信(Machine Type Communications:MTC)はどのような要素技術が必要なのだろうか──。そうした検討が3GPPのリリース11(Rel-11)のスタディアイテムで行われた。その際に評価の基準となったのは、それらの要素技術が低消費電力化、コスト削減、およびカバレッジ拡張などにどの程度貢献するかであった。

 そうして決定された主な要素技術は、LTE-Mの具体的な仕様を検討するための基礎となった。今回は、スマートフォン向けの仕様であるRel-8などと比較しながら、Rel-11において検討された主な要素技術を見ていく。

最大周波数帯域幅の削減

 Rel-8で最初に標準化されたLTEの仕様(Cat-1~Cat-5)では、UEは最大で20MHzの周波数帯域幅の信号を送受信する必要がある。このような広帯域の周波数とMIMO(Multiple Input Multiple Output)と呼ばれる複数の送受信アンテナを用いる技術を組み合わせることで、高速化を実現する。例えばCat-4と呼ばれるUEカテゴリーでは、下りで最大150Mbps、上りで最大50Mbpsという高速通信が可能となる。こうした仕様は、スマートフォンを快適に利用するには重要である。

 しかし、IoTではそのような高速通信はほとんど必要ない。従って、送受信に周波数帯域幅を必要最小限まで削減することが検討された。削減はベースバンド回路や高周波回路の簡略化に貢献するため、ひいては低消費電力化やコスト削減に寄与することになる。

単一アンテナ受信

 Rel-11では、受信用のアンテナを1本に減らすことが検討された。

 従来のLTEでは、UEは最低でも2本の受信アンテナと1本の送信アンテナを実装することが想定されており、それを基にして受信感度などの仕様が規定されている。基地局の下りカバレッジも2本の受信アンテナを基準に設計されている。

 受信アンテナを1本に減らすことは、UEのアンテナ素子が半分になることを意味する。アンテナからの無線信号の処理が半分になるため、受信回路の低消費電力化およびコスト削減の両方に貢献する。

 一方で、受信アンテナの数が1本に減ると受信感度の劣化につながり、カバレッジが狭まる。また、セルサーチと呼ばれる基地局からの同期信号の検出に要する時間が、受信アンテナが2本の場合に比べて長くなる。結果として消費電力の削減にそれほど貢献しない恐れもある。

▼受信感度:どれくらい微弱な電波まで受信できるかという能力を表す度合い。受信感度の劣化を防ぐには、受信信号の強度を高めるために、より強い電波が必要となる。

ピークレート削減

 これまでも触れたが、LTEでは、UEの処理できる送受信データ量に応じて、複数のUEカテゴリーが規定されている。従来仕様でデータ量の最も少ないCat-1のピークレートは、下りで10Mbps、上りで5Mbpsである。

 MTCでは、さらに小さいピークレートでも十分であるという想定から、送受信ピークレートの削減が検討された。ピークレートの削減は、計算量の削減となり、低消費電力化とコスト削減の両方に貢献する。

UE送信電力削減

 Rel-8で規定されたLTEでは、UEの最大送信電力は23dBm(200ミリワット)となっている。基地局当たりの上りのカバレッジはこの規定値を基に設計されている。23dBmの電力で電波を送信するために、UEはパワーアンプと呼ばれる電力増幅器を搭載している。

 このパワーアンプの消費電力は、UE送受信回路の消費電力のかなりの部分を占めている。例えば、最大送信電力を半分の20dBm(100ミリワット)に削減すれば、消費電力の削減に大きく貢献する。また送信電力を削減することで、パワーアンプを高周波回路と同じLSIチップ上に統合できるため、コスト削減に貢献する可能性もある。ただその一方で、上りのカバレッジは縮小する。

半2重FDD方式

 Rel-8で規定されたLTEでは、上りと下りの通信を別の周波数帯で行う周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)と、同じ周波数帯を共有しつつ、時間で上りと下りを分ける時分割複信(Time Division Duplex:TDD)という2つの複信方式が定義されている。

 例えば、日本国内でLTEに利用されているバンドのうち、バンド1(2GHz帯)やバンド3(1.7GHz帯)などはFDD方式の周波数帯である。WiMAX 2.1/AXGPに使用されているバンド41(2.5GHz帯)や第4世代移動通信システム(4G)として最近使用され始めたバンド42(3.5GHz帯)はTDD方式の周波数帯である。

 FDDには全2重方式と半2重方式がある。全2重方式は、送信と受信を同時に行うことが可能な方式。半2重方式は、送信と受信を交互に行う方式である。従来LTEで使用しているFDDは全2重方式が前提である。すなわち、UEは、上り周波数に同期する発振回路と、下り周波数に同期する発振回路の両方を実装していることになる。

 それに対して半2重FDD方式では、発振回路を1つだけ用意し、送信時には送信周波数に同期させ、受信時には受信周波数に同期させるような構成が可能である。これは高周波回路の簡略化につながり、コスト削減となる。このため、低コスト化が求められるIoT向けに、Rel-11では半2重FDD方式が検討された。

 その一方で、半2重FDD方式は、上り周波数と下り周波数との間で発振回路の切り替え時間が必要となる。図14に、全2重FDD方式と半2重FDD方式を実現する回路構成の例を示す。

図14●全2重FDD方式と半2重FDD方式を実現する回路構成の例
出典:エリクソン
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 UEは送信と受信を同じアンテナ素子で行うことが多い。1本のアンテナを上りと下りで共用しつつ全2重FDD方式を採用する場合、上り信号と下り信号を分離するデュプレクサーというフィルター回路が必要となる。

 それに対して、半2重FDD方式は送受信を同時に行わないため、送信時にはアンテナ端子を送信回路に接続し、受信時にはアンテナ端子を受信回路に接続すればよい。そのため、デュプレクサーをアンテナスイッチという回路に置き換えられる。アンテナスイッチは、文字通り、アンテナの接続を電気的に切り替えるスイッチである。若干ではあるが、この置き換えもコスト削減につながる。

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