経験値評価とゴールド評価
イラスト:湊川あい
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 「はぁ、事例発表ですか!?…そんな仕事、頑張ったって評価されないですよね?いまいち、やる気出ないよなぁ…」

 主任のアーサーはあからさまに嫌そうな顔をした。舞子は返す言葉がなかった。

 今日、朝イチで、舞子は広報チームの藤塚課長代理からある相談を受けたのだった。当社が参画する機械装置産業の情報システム部門の交流会で、事例を発表してくれないかと。何でも、購買システムの運用を通じて得た気付きや改善事例を発表してほしいという。

 「購買システムは今年立ち上がったばかりだし、フレッシュさもあってよいかと思いましてね。金澤さん(情報システム部長)もいいんじゃないかって仰っているんですよ」

 藤塚はさりげなく、部長の名前をちらつかせる。既にトップに根回し済みか…。さすが広報チームだ。これは断るわけにはいかなそうだ。舞子はしぶしぶ承諾した。で、その任務をアーサーに任せようとしたのだ。

 「そもそも、俺プレゼンとか得意じゃないですし。勘弁してください…」

 アーサーは抵抗を続ける。確かに、どちらかといえば細かい作業が得意なアーサーに、事例発表は少々重荷か。とはいえ、すけさんは職位と年齢の面で要件を満たしていない。藤塚からは、「20代後半、できれば主任以上の人に登壇してもらいたい」と言われていた。

 ――とはいえ、私や衣笠さんがやるのもなぁ。ううん。どうしよう。

 気落ちするアーサーの横顔を前に、舞子は腕組みした。

―――――

 何の解決策も得られないまま、1日が終わってしまった。無理におだててアーサーを説得しても、いい結果にはつながらない。それよりは、別のアプローチを考えなくては…。舞子はブツブツと言いながら、自宅マンションのエレベーターに乗った。

 さて、昨日の冒険の続きだ。舞子は今夜も、ドラクエIIIをファミコン本体にセットして電源スイッチを入れる。もはや毎日の習慣だ。

 勇者まいことその一団は、今日も新たな土地を訪れ、新たな謎解きにチャレンジする。フィールドに出て間もなく、モンスターに遭遇した。戦闘画面に切り替わる。

 「あ、はぐれメタルだ!」

 舞子は、思わず声を上げた。はぐれメタル。ドラクエをプレーしたことのある人なら、知らない人はいないお宝キャラだ。遭遇率が低く、かつなかなか倒せない強敵(=素早さが高くてすぐ逃げる、守備力が高い)だ。

 倒すことができれば、勇者たちが獲得できるゴールド(お金)は少ないものの、ずば抜けて高い経験値を得られる。得られる経験値が高ければ、メンバーはより早く「レベル」を上げられる。そして、攻撃力、守備力、賢さ、素早さなどがアップし、新たな呪文を覚えられる。

 こいつは、何が何でも倒したい。コントローラーを握る舞子の両手に、ぐっと力が入る。現れた3匹のうち2匹は逃げられたが、1匹は倒すことができた。メンバーはそれぞれ1万ポイント近い経験値を獲得。一気にレベルが上がった。舞子は思わずガッツポーズを決める。

 「ゴールド(お金)も大事だけれど、やっぱり経験値も大事だよね」

 しみじみとつぶやく舞子。自分の発した声を聞いて、舞子は気が付いた。

 「そうよ。ゴールドだけじゃなくて、経験値で評価してあげる仕組みも必要なのよ…」

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