ビットコインを端緒としたブロックチェーン技術の応用は、国内外を問わず大きな熱量を持って広まっている。そのブロックチェーン技術を客観的に評価する記事をリレー形式で載せている本連載だが、今回はブロックチェーンを取り巻く世界の潮流と、それを踏まえた国内の状況に関して、その渦中からではなく第三者からの視点で俯瞰してみたいと思う。

 本稿は2016年8月末現在の状況を踏まえて記述している。ただし、アプリケーションとしての暗号貨幣(Cryptocurrency)の取引に関する話には、深く踏み込まない。ビットコインを始めとした動向も、あくまでブロックチェーン技術の視点から触れるにとどめる。全体像を掴むことが目的なので、個々のスタートアップのプロダクトなどに関しても深く踏み込まない。

ブロックチェーン、世界では何が議論されているのか

 世界に大きな影響を与えたビットコインは、その普及の過程で「暗号貨幣(Cryptocurrency)」「ブロックチェーン」「非中央集権(De-Centralized)」「分散台帳(Distributed Ledger)」などの技術的なキーワードを世間に広めた。

 また「FinTech」と呼ばれる金融の技術革新へのムーブメントは、ビットコインの取り込みにより、より大きな力を得た。今でも、特に日本国内において、ビットコインおよびブロックチェーン技術がFinTechの括りでしばしば語られるのがその証左だ。

 だが実際には、ブロックチェーン技術の適応領域はFinTechだけではない。より幅広い領域で、今まで想定していなかった行為を実現できる可能性がある技術と考えるべきだろう。

 ブロックチェーンに関しては、ITの新たなインフラや基盤としての視野から、いくつか国際標準、デファクト/フォーラム標準の分野で話題にあがるようになった。まず、純粋な標準化団体ではないが、Linux Foundationで2015年12月に「Hyperledger Project」が立ち上がったニュースは注目を浴びた。

 続いて、Web技術の標準化団体であるWorld Wide Web Consortium (W3C)がワークショップ「Blockchains and the Web - A W3C Workshop on Distributed Ledgers on the Web - 」を開催。インターネット標準化団体のInternet Engineering Task Force (IETF)でも、米リップルが提案しているInter Ledger Protocol(ILP)に関する「LEDGER BoF」セッションが持たれるなど、徐々に標準化に向けた動きも出てきている注)

注)ただし、明確にブロックチェーンの話ではなく、ILPというプロトコルの話と限定されていた。

非常用の「フォーク」がブロックチェーンで多用されている

 こうした標準化の議論に加え、ブロックチェーンの応用に大きな影響を与えるガバナンス上の課題である「フォーク(fork)」が、ビットコインを含む世界の開発コミュニティの間で物議を醸している。

 「フォーク」とは、公開されているソフトウエアを分岐(fork)させ、新しいプロダクト/コミュニティとして独立する動きを指す。主にオープンソースソフトウエア(OSS)に特有のアクションである。コミュニティとしてみれば「分派」というイメージだろうか。

 OSSの分野におけるフォークは、ガバナンスを担保するための手段として、いわば非常用に用意されている。通常はなんとかしてコミュニティの内部で問題の解決を目指す。つまり、フォークが発生するのは、コミュニティ内の話し合いが決裂しているケースがほとんどだ。

 OSSの場合、その多くは自由に開発・利用できるライセンス(FLOSS(Free/Libre and Open Source Software)ライセンスなどと言われる)であり、ソフトウエアの「ほぼコストなしでコピー可能」という特性と合わせれば、たやすく分派できる。つまり、コミュニティの健全性が損なわれている場合は、方針を同じくする仲間とフォークすれば、ソフトウエアの利用者に対して多大な負担をかけずに、そのソフトウエアのコミュニティ(と開発)を継続できるわけだ。

 OSSの世界での古く、そしてよく引き合いに出されるフォークの例としては、GNU Compiler Collection(GCC)とExperimental/Enhanced GNU Compiler System(EGCS)がある。これは、後日再統合された例としても有名だ。

 ビットコインにおいても、古くは「Bitcoin XT」や「Bitcoin classic」などのフォークの提案があった。最近でも、The DAOの事件におけるイーサリアム(Ethereum)のハードフォーク/ソフトフォークの議論が記憶に新しい。

 イーサリアムでのハードフォーク/ソフトフォークは本来、コミュニティの分派という話ではなく、既に確定した台帳とそこに結びつく結果を捨て、過去の一時点から分岐した新しい枝を正当な台帳にしてしまう点で、コミュニティやソースコードではなく「台帳のフォーク」といえるものだった。しかし、それを良しとしないコミュニティ内の人々が「Ethereum Classic」というコミュニティ/ソフトウエアのフォークをするに至った。本来は巻き戻すことができない分散台帳の特性のためか、ブロックチェーンの世界ではフォークという行為が頻出する傾向にあるようだ。

 あくまで私見ではあるが、フォークの話を何度も聞くようなシチュエーションは、そのコミュニティの成熟度の低さを表しているのではないだろうか。前述のGCCの例を始めとしたFLOSS/OSSの世界や、インターネットにおけるIETFやISOC、ICANN、IGFなどのコミュニティでも、フォークが成立する過程では、後に傷を残すものも含め、多くの試行錯誤があった。その過程で、コミュニティが担う領域(範囲・スコープ)や運用ポリシー、最近でいえばCode of Conductの策定などの取り組みが行われてきた。OpenSSLなど、基盤技術における持続可能な組織作りに関しては、試行錯誤の渦中でもある。

 ブロックチェーンは非常に新しい潮流であり、過去を引きずっていないのが大きな魅力だ。ブロックチェーンがレガシーな金融分野でのFinTechブームを後押ししているのは、金融分野の歴史的なしがらみを切り離せる点にある、という見方もできる。

 一方でブロックチェーンの領域では、突然大量のユーザーが誕生し、同時にビジネスとしての市場が一気に立ち上がり、そして大量の資金流入が起きた結果、未成熟なまま乱立したコミュニティが、背負いきれないものを背負っている状況にある。今後ブロックチェーンコミュニティは他組織の過去の歴史に学びつつ、成熟したコミュニティへとまとまっていく必要がある。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら