IoTが社会に浸透していく際には、IoTデバイスへの電源供給が課題となる。前回取り上げたエネルギーハーベスティングはその解決策の一つだが、無線を利用してIoTデバイスへ電力を供給する「ワイヤレス充電」も有力な方法だ。

 現在主流の方式として「Qi(チー)」や「Powermat(パワーマット)」などが挙げられる。これらの方式は充電装置の上にデバイスを載せて充電する形式であり、屋内の任意の場所に設置したIoTデバイスに充電することはできない。任意の場所にあるデバイスに対しては、遠距離でも充電可能なワイヤレス充電(遠距離ワイヤレス充電)が必要となる。遠距離ワイヤレス充電の技術は以前から提唱されているが、充電効率などの問題から商用化が進んでいなかった。

 しかし、ここにきて遠距離ワイヤレス充電を本格的に商用化しようという動きが出てきた。本稿で紹介するワイヤレス充電システム「Cota(コタ)」は、スマートフォンなどのモバイルデバイスだけでなくIoTデバイスへのワイヤレス充電も視野に入れている。また、充電効率の問題は独自の無線方式で解決している。

 本稿ではこのCotaの技術的特徴と商用化に向けた狙いを解説するとともに、遠距離ワイヤレス充電の最新動向を紹介する。

Cotaの特徴

 Cotaは米Ossia社が開発したワイヤレス充電システムで、2013年9月に米国サンフランシスコで開催されたイベントTechCrunch Disruptでプロトタイプが紹介された。その後、KDDIと共同開発した商用レベルのシステムが2016年1月に米国ラスベガスで開催されたCES2016で展示された(図1)。

図1●黒いバケツのようなCotaトランスミッターと単3乾電池型レシーバー
(撮影:佐野 正弘)
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 Ossia社とKDDIが挙げているCotaの特徴について、以下で詳しく見てみよう。

(1)デバイスがどこにあっても充電可能

 Cotaは、トランスミッターを中心とした半径30フィート(約9m)以内であれば、レシーバーをどこに置いても充電できる。といっても、充電用の電波を半径9mの範囲に一様に放射したのでは、レシーバーがない方向に放射された電波がムダとなり、充電効率が大きく下がってしまう(図2a)。

 そこで、Cotaではレシーバーだけに電波が届くように、トランスミッターにフェーズドアレーアンテナを内蔵している。フェーズドアレーアンテナは複数のアンテナ素子を線的・面的に並べ、各素子に給電する電波の位相を制御することで、アンテナの位置を動かすことなく指向性を制御できる。つまりビームの向きを変えることができる(図2b)。トランスミッターはレシーバーからのビーコン信号を受信してレシーバーの位置を常に把握している。スマートフォンを持ち歩くなどしてレシーバーが移動しても、ビームを追従させて充電を続ける仕組みになっている。

図2●(a)電波を一様に放射するとムダが多い。(b)フェーズドアレーアンテナを使えば、必要な方向に電波を放射できる
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 Cotaのトランスミッターに実際に内蔵されているのは図3のアンテナで、1枚の基板に4×14=56個のアンテナ素子が作り込まれている。この基板がトランスミッター内に16枚、円筒状に配置されており、トランスミッターの真上・真下を除くどの方向にもビームを向けることができる。

図3●Cotaトランスミッターに内蔵されているフェーズドアレーアンテナ
(撮影:佐野 正弘)
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(2)複数のデバイスを同時に充電可能

 Cotaトランスミッターは複数のビームを放射可能であるため、複数のデバイスを同時に充電できる。とはいえ、トランスミッターからの供給電力は最大1Wと低く、複数のスマートフォンへの同時充電は2台程度にとどまるようだ。

(3)充電装置が認証したデバイスにだけ充電可能

 複数のデバイスをどこに置いても充電できるとなると、他人に勝手に充電される懸念がある。これを防ぐために、Cotaではトランスミッターとレシーバーとの間に認証機能を設けており、認証されたデバイスだけが充電される仕組みになっている。レシーバーの認証、レシーバーの設定管理、および充電状況のモニターは、Webブラウザーやスマートフォンアプリから行うことができる(図4)。CES2016でデモを実施したときは、KDDIと共同開発したau ID認証を用いていた。

図4●Cotaレシーバーを認証・管理するためのスマートフォンアプリ
(撮影:佐野 正弘)
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 充電可能なデバイスはスマートフォンやタブレットだけではない。CESでは単3乾電池型のレシーバーも展示された(図5)。これを使えば、ワイヤレスマウスやテレビのリモコンなど、単3乾電池を使用する普通の電気製品をCotaに対応させることができる。

図5●単3乾電池型のCotaレシーバー。アンテナや回路が内蔵されている
(撮影:佐野 正弘)
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