パナソニックが2017年に、新しい「工場」を米シリコンバレーに設けたのをご存じだろうか。同社が「Panasonic β」と呼ぶ新組織は、宇宙船のような外観をした米Appleの新本社オフィスの向かいにあり、パナソニックによる「イノベーション量産化のマザー工場」と位置付けられている。

 「品質の高い製品を量産するメソドロジー(方法論)として『生産技術』が存在するように、イノベーションの量産にも方法論や仕組みが存在する。パナソニックにとってのイノベーション量産の方法論や仕組みを生み出す『マザー工場』がPanasonic βだ」。2018年1月中旬に、報道陣にPanasonic βを公開したパナソニックの馬場渉ビジネスイノベーション本部副本部長はそう説明する(写真1)。Panasonic βは「マザー工場」ではあるが、作っているのは製品ではない。革新的な製品を生み出すための方法論こそが、シリコンバレーにある同拠点が生み出そうとしているものだ。

写真1●パナソニックの馬場渉ビジネスイノベーション本部副本部長
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 イノベーションには方法論があり、起業や新規ビジネスの創出を目指す人は必ずそうした方法論を学び、訓練して身に付けるべきである――。このような認識はシリコンバレー、特にその中心地である米スタンフォード大学では常識になっている。イノベーションの方法論の一つが「デザイン思考」であり、スタンフォード大学で起業を目指す学生は、同大学の「d.shcool」などでデザイン思考を学び、実践している。

 Panasonic βが開発しているイノベーション量産の方法論も、デザイン思考や「リーンスタートアップ」に基づいている。Panasonic βを率いる馬場氏も2017年4月にパナソニックに転じるまでは、デザイン思考を全社的に実践していることで知られる欧州SAPのシリコンバレー拠点に所属。SAPの顧客である大企業に、デザイン思考を導入する支援をしていた。

「パナソニックという法人そのものをデザインシンカーにする」

 「プロダクト開発にデザイン思考を導入するのは簡単だ。より重要で難しいのは、パナソニックという法人そのものがデザイン思考の実践者(デザインシンカー)になり、顧客に対する『共感力』の高い会社になることだ」。馬場氏はパナソニックにおける自身のミッションをそう語る。

 デザイン思考では、製品やサービスの顧客に「共感」し、顧客の「痛み」などを理解することが、製品やサービスの開発プロセスの起点となる。実際の開発では、プロトタイプ(試作品)を使った顧客テストを重視。顧客によるテストと顧客からのフィードバックに基づくプロトタイプの改善を何度も繰り返すことで、より良い製品を実現する。

 顧客テストで使うプロトタイプは紙などを使った簡易なもの、あるいはユーザーインタフェース(UI)だけが実装されたソフトウエアや模型などで構わない。「従来のパナソニックでは、プロトタイプとはハードウエアを指し、ソフトウエアやUIは後回しにされていた。そうした従来のやり方とは全く異なる方法論をPanasonic βで生み出す」(馬場氏)という。

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