米アップルが2016年9月7日(米国時間)に開いた新製品発表会で新型「iPhone 7」を発表しました。今回の新製品の目玉は防水機能とカメラの機能強化と事前に流れていました。これまでのiPhoneの新機種と比較すると「地味な機能向上」という印象を受けていました。

 ところが発表会では、日本向けのモデルに限り、JR東日本の発行する「Suica」などに使われている非接触ICカード技術「FeliCa」に10月下旬から対応すると公表したのです(関連記事:Apple Payが10月下旬に日本上陸、iPhone 7のFeliCa対応でSuicaが利用可能に)。同時に、日本では長らくお預けになっていた同社の電子決済サービス「Apple Pay」もスタートします。国内でApple Payが使えるのは喜ばしい話ですが、このニュースを聞いて私の頭は疑問符だらけになってしまいました。

「なんでアップルはそんな無駄なことをするんでしょうか」

 新製品発表の数日前、クレジットカードビジネスに詳しい野村総合研究所(NRI)の宮居君が私のところへやってきました。
「楠さん、どうやらアップルは本当にFeliCaをiPhoneに載せるみたいなんですよ。私はあり得ないと思っていたんですが…」。

写真●FeliCa対応を発表するアップルのフィル・シラー上級副社長
(出所:米アップルのストリーミング配信からキャプチャ)

 宮居君の意見を要約するとこうでした。

  • 米国で2014年からスタートした非接触ICカードのType A/B仕様を使ったApple Payはまだ本格的な普及段階には至ってない
  • FeliCaは日本にしか普及していないので、グローバルな製品の機能としては意味がない。アップルといえどもFeliCaの加盟店端末を米国や欧州で普及させる力はないだろう
  • iPhoneがFeliCaに対応して喜ぶのは日本の「おサイフケータイ」のユーザーだけ。対象者もマーケットインパクトも僅かなものだろう

 ちなみにType A/Bは非接触ICカードの国際規格「ISO/IEC14443」で定義された仕様の名称で、同じ仕様が携帯電話機などデバイス向けにはNFC(近距離無線通信)として「ISO/IEC18092」などで規定されています。日本では少ないですが、欧州や米国ではType A/B対応したクレジットカードも増えているようです。一方のFeliCaはソニーが開発し、JR東日本の「Suica」などに採用された非接触ICカードの独自規格です。FeliCaは日本で広く普及していますが、香港を除くと海外での実用例はほとんどありませんし、残念ながら国際規格にもなっていません。

 宮居君はクビをかしげます。
「なんでアップルはそんな無駄なことをするんでしょうか」。
「うーん。世界中にFeliCaをばらまくとしたら、おかしいように思えるよね。けれど、きっと僕らが分かっていない何かをアップルは考えているんじゃなかな? アップルの本当の目的がどこにあるか、僕らにまだ見えていないから、新製品に違和感を感じるんだよ。きっと」。

 グローバルで販売するアップルの新製品に日本のガラパゴステクノロジーの代表格ともいえるFeliCaを採用するという話に違和感を持った、宮居君の感覚は正しいと思います。実際の発表では、FeliCaが使えるのは(少なくとも当初は)日本で販売する機種だけで、海外ではType A/B仕様でこれまで通りサービスを続けるという話でしたが、発表前の段階で私たちは、そこまでの情報を得ていませんでした。

 その時の宮居君との議論の続きです。
「アップルはApple Payでクレジットカードビジネスを変革するつもりだよね。そもそもクレジットカードビジネスは、今、どういう問題を抱えているの?」。
「クレジットカードの処理金額は日本でも海外でもどんどん増加しています。金額や件数の増加をドライブしている大きな要因はネットビジネスです。日本でも米アマゾン・ドット・コムが最大のクレジットカード加盟店になろうとしています」。

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