認証技術の標準化団体OpenIDファウンデーション理事長を務めている野村総合研究所(NRI)上席研究員の崎村夏彦君に話を聞きました。話題は去る6月21日に開催されたOECD閣僚級会合の労働組合諮問委員会のパネルディスカッション。インターネット技術諮問委員会(ITAC)委員でもある彼が出席したのです。

(提供=123RF)

 ディスカッションのテーマは「デジタルデフレーション」。デジタル革命による生産性の向上が、労働者の職を奪い、デフレーションにつながっているという考え方です。OECDの委員会で、そんな危機感を持って議論されているのに驚きました。

デジタル革命が労働者の職を奪いデフレーションにつながる

 「デジタル革命」という言葉はよく耳にしますが、「デジタルデフレーション」は私も崎村君から初めて聞きました。すぐにネットで調べてみると、このところ徐々に話題に上ってきているキーワードの一つのようです。例えば、アメリカの広告業界ではインターネットメディアに対する広告支出がテレビ広告を上回ったにも関わらず、産業全体では広告業界の成長率が低い事実が注目されています。つまり、テレビからインターネットへと広告がデジタル化した結果、デフレーションにつながったという分析です。

「日銀がマイナス金利を導入しても物価が上がらないのは、デジタル革命が生産性を向上させてしまったからなのだろうか。デジタルデフレーションとマイナス金利が拮抗しているということなのだろうか?」

 私の習った歴史では、過去の産業革命では生産性の向上が引き金となって、需要が大きく増加し、産業の成長につながったはずです。産業革命にはインフレーションを引き起こすイメージがありますが、デフレーションにつながるという認識はありませんでした。しかしよく考えてみると、生産性の向上は製品の価格を急激に引き下げるわけです。イギリスの第一次産業革命では綿織物の価格が大幅に下がった結果、インドの綿織物産業が大打撃を受けました。しかし価格の低下が爆発的な需要の増加を引き起こしたから、産業が成長したわけです。産業の成長には価格低下による需要の爆発が必要です。

 考えてみると工業製品もサービスも、多くものが過去数十年にわたって価格が下がり続けています。私がはじめて買った自家用車は今と比較するとひどい性能でしたが、価格はちっとも安くありませんでした。自動車はこの数十年で価格性能比がずいぶん上がったと思います。一方で、電化製品はどれも大変安くなりました。コンビニやスーパーマーケットが日常の食品や必需品の価格も下げてくれました。株取引の手数料はかつて3%でしたがいまは大手でも1%以下が当たり前です。銀行だっていろいろな手数料が下がり続けています。デジタル革命のずっと以前から、ソフトウエアによる生産性の向上が継続しているわけです。

 第5次産業革命とも言われるデジタル革命。第3世代プラットフォームやエコシステムをキーワードに米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、米フェイスブックといった企業が急成長しています。以前、説明したとおり、20世紀型企業の黄金伝説のキーワードは「Know Who」と「Know How」でした(関連記事:IT業界の「黄金伝説」とスーツがTシャツに代わったわけ)。これをデジタル革命の騎手たちはクラウド上で金を稼ぎ続けるインサイトエンジンに作り変えているのです。そのためのコストがソフトウェア開発費。目標はコスト削減なんかじゃありません。

 デジタルビジネスが、従来型産業の生産性を大幅に改善しているのは疑いようのないでしょう。しかしデジタル革命は果たして需要を拡大させているかどうか。ここが問題です。

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