野村総合研究所(NRI)には「対策前進」という言葉があります。「後戻りはできないから、全力でプロジェクトを遂行する」といった意味で使われます。社内のシステム開発の現場では普通に使われているので、私は長いこと日本中で使われている一般的な熟語だと思っていました。「孫氏の兵法」にでも出てきそうな四文字熟語だと。

(提供=123RF)

 ある時、先輩から「対策前進」の語源を教えてもらいました。まだメインフレーム時代の野村コンピュータシステムでの話です。大きなシステムリリースを前にリリース会議が開かれていました。偉い人がリリース手順をひとつひとつ確認していきます。

「ここはどうなっている?」
担当者が答えます。
「それはかくかくしかじかの手順で進めます」
といった塩梅です。

 こうやって一つ一つ確認していく中に、いったんリリースしてしまったらもう元に戻れないというプロセスがありました。
「後戻りできないとどういうリスクがあるのかな?」
「かくかくしかじかの可能性があります」
「それはまずいじゃないか。対策は?」と偉い人が聞くと、若い担当者は少しつまった後にこう答えたというのです。
「前進です」

準備もなしに無手勝でやるという意味ではない

 こんなやり取りの末、無事リリースが実施されたのですが、リスクへの対策はないわけです。けれども前進する。それが対策前進です。ある意味野蛮で強引なのですが、すごく前向きで、当事者意識が強く表現されています。語源を知る人はいなくとも、NRIの現場では「死ぬ気でやります」くらいの意味で使われています。ただし、準備もなしに無手勝でやるという意味では使いません。最善の準備をしたけれども、あとは前に進むしかない。そういう意味です。

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