ITproの人気コラム「木村岳史の極言暴論!」ではこれまで幾度となく、日本のIT業界に蔓延するいびつな多重下請構造の問題を取り上げてきた。一方、海外での豊富な就業経験・起業体験から、硬直化した国内のIT業界に対し同様の警鐘を鳴らしてきたのが、元マイクロソフトのチーフアーキテクトであり、UIEvolutionファウンダー/会長兼ブロガーの中島聡氏だ。
 かたや「ITゼネコン」(中島氏)、かたや「SIガラパゴス」(木村)と、呼び方こそ違えど、両者の問題意識には通じるものが多い。日本の内と外それぞれの立場から業界が抱える問題点を考察し、ITproの主要読者であるITプロフェッショナルたちが今後どう身を処していくべきかを存分に語ってもらった。(司会・進行は石井 智明=日経コンピュータ編集委員)

――中島さんのメルマガ「週刊 Life is Beautiful」には、しばしば「ITゼネコン」という言葉が登場しています。そもそも、そのような問題意識を抱かれたきっかけは何だったのでしょうか。

中島 原体験となる最初のショックは、大学院を出てNTTの研究所に入ったときでした。私の場合、高校生の時がまさにパソコンの黎明期で、その頃からプログラムを書いていました。高校時代は学生アルバイトみたいな形でプログラムを書き、大学に入ってからは「CANDY」というCADソフトを作りました。このソフトはアスキーに売ってもらっていたのですが、そんなふうにIT産業が急成長していく、ある意味、中心的なところにいたんですね。偶然なんですが、たまたまいいところにいた。

UIEvolutionファウンダー/会長兼ブロガーの中島聡(なかじま・さとし)氏
学生時代、アルバイトとして在籍したアスキーで記事執筆やソフトウエア開発に従事。NTT、マイクロソフト日本法人を経て1989年、米マイクロソフト本社に移籍、Windows 95、Windows 98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトなどを務めた。現在もプログラミングの前線に立つ傍ら、有料メルマガ「週刊 Life is Beautiful」等で情報発信を続けている。(撮影:渡辺 慎一郎)
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 当時はパソコンとかをやっている人はそんなにいなかったですから、競争相手もいない。かつ、あまりにも新しいものだったので、ちゃんとした企業に入っている人ですら、まともなプログラムが書けない。そんな状況で、高校、大学生が実はトップクラスとして活躍できるという経験をさせてもらった。当時アルバイトをしていたアスキーの人たちからは、「お前、会社つくれよ。こんなにプログラム書けるんだし、売り上げもあるんだから」って言われていました。大学を卒業したのが1983年、大学院を出たのが1985年ですが、当時はバブルの真っ最中。理系のエンジニアといえば引く手あまたで、もうどこにでも入れる状況でした。

 各企業とも、とにかく何人でもいいから人材が欲しい、という状況だったので、教授がその流れをコントロールしない限り、1つの学科から、例えばNECみたいな人気企業だと50人くらい、ごそっと採られちゃうわけです。それを止めるために、じゃあ、NTTは10人、松下電器産業(当時、現パナソニック)は10人、NECは10人みたいな振り分けをしなきゃいけない。当時はまだ、終身雇用制もしっかりしていましたし、自分の父親も当時ゼネコンに勤めていたのですが、一部上場企業の正社員としてちゃんとやっている。私も早稲田ですから、周りの雰囲気としては、アスキーみたいなベンチャー企業に行くとかいうのはもったいなさ過ぎるというわけです。

 今になって気が付いたのですが、そして日本はいまだにそうですけど、一流上場企業の正社員というのは「身分」なんですね。そして、その身分を得るチャンスは大学を卒業する一瞬しかない。最近でこそ中途採用が増えましたけれど、少なくとも私のときにはそうでした。だから、アスキーに行くとか、自分で会社をつくるなんてあり得ないと。せっかく得られる身分なんだからということで、NTTの研究所に入ったんです。

 NTTの研究所って半分は修士号、残り半分は博士号を持っているような優秀な人たちがいるわけから、きっとものすごいことをやっているに違いないと。ちょうど私のときは、それまでの通信やハードウエアの研究から、ソフトにテーマが移っていた時期でしたから、これはもうソフトで最高のことをしている企業に違いないと思って入った。で、いざ入って1年もしないうちに気が付いたのですけど、誰もプログラムを書かないんです(笑)。

 当時配属されたのは、交換機のOSとかハードウエアを作っている研究所でした。交換機といったらNTTでも中核のビジネスです。そこのソフトウエアを作っている部署に入ったにもかかわらず、その人たちはプログラムを書かずに仕様書だけ書いて外部の下請業者に投げる。

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