iPhone 7、Apple Watch 2がSuicaに対応する。国際規格にのっとったものにしか対応しないはずの大方針をアップルが転換、日本以外ではほとんど使われていないFeliCa規格のSuicaを「日本向け製品にのみ」搭載という禁断の経営戦略を取ってきた。地域によって異なるモデルを製造すると収益率を圧迫する。しかし、それでもあえてそんな戦略を取ってきたアップルにはどんな秘策があるのか。

日本向けモデルのみに搭載されたFeliCa

 ほとんどの人が毎日お世話になっているSuicaカード。首都圏を中心に、相互に運用提携しているために日本全国4789の駅、約3万台のバス、約36万の店舗で利用可能な便利な電子マネーの一種だ。

 Suicaが使っているチップはソニーが開発したFeliCaを採用している。FeliCaは世界標準であるNFC(Near Field Communication)規格の一つではあるが、普及は主に日本国内のみ。海外ではType-AないしはBのNFCが使われている。Type-A/BとFeliCaは同じNFCの仲間ではあるが、相互に互換性はない(図1)。

図1●Suicaはソニーが開発したFeliCaチップを使っている。
反応が高速、電源は送信機から受電するのでそれ自体には不要。電子マネーのSuica、ICOCA、楽天Edy、nanacoなどに採用されているほか、社員証や入室キーなどさまざまな分野で使われている。
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 アップルは2014年10月にiPhoneやApple Watchを決済端末に近づけると、機器内にセットしたクレジットカードから決済ができるApple Payのサービスを米国で開始したが、日本ではFeliCaに対応する決済端末しか設置されていないこともあって、現在に至るまでApple Payは日本上陸を果たせなかった。

 日本でiPhoneを電子マネー端末として使えるようにするにはiPhoneにFeliCaチップを乗せるか、全国の改札口、店舗の決済端末をType-A/Bに変更するかの二者択一しかない。しかし、改札口の決済機をType-A/Bにすることはできない。すでにここまで普及しているものを改修するのは不可能である上に、Type-A/BのNFCでは大混雑する公共交通機関で乗客をさばききれない、という問題があったのだ。

 JR東日本(東日本旅客鉄道)がSuicaの開発を進めていく上で得た結論は1分間に60人がスムーズに通れること。カードを読み取り機にかざしたあと、読み取り機のアンテナから送られてくる微弱電波をカードが受け取って微弱な電力を発生させチップを起動、カードに書き込まれた情報を改札機に送り、その情報を元に残高確認と引き落としを行った上で、カードに書き戻すといった一連の動作を完了させなけばならない。オートチャージの設定がしてある場合にはサーバーと通信しクレジットカードからの引き落とし処理を行わなければならない。読み取り機にかざして、すべての処理が終わるまでに200ミリ秒の猶予しかないのだと言う。

 それだけのスピードをFeliCaはカバーするが、Type-A/Bのチップではそれが500ミリ秒、事業者によっては250ミリ秒という要件で作られている。さらにFeliCaでは読み取り機から80mm以内に近づければ正常動作してくれるが、Type-A/Bでは20mm以内が要件だ。これらの規格のチップを使えば、1分間に60人が通過することはできず、改札口で大渋滞がおきてしまう。

 結局、iPhoneを日本でも決済端末として使えるようにするにはiPhoneにFeliCaチップを乗せるしかなかったのだ。しかし、アップルは全世界規模でほとんど同じモデルを一貫生産し高い収益性を上げるモデルを踏襲してきた。それをあえて、日本モデルのみFeliCa搭載のモデルを生産する決断をした。この決断は将来において、更なる何らかの勝機があると踏んでのことと思われる。それは何なのか?

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