今、中東のイスラエルに関する世間の耳目は、イスラエル政府とパレスチナ自治区ガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスとの軍事衝突に集まっている。過去にもこうした紛争が繰り返され、非常に憂慮される事態だが、一方で、イスラエル発の技術はITの世界に大きな影響を与えてきた。

写真1●イスラエルの医療機器メーカー、ギブン・イメージングが開発したカプセル内視鏡
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 挙げていけばきりがないが、VoIP(Voice over IP)や低消費電力CPU、ファイアウォールなどはIT関係者ならすぐに思い浮かぶはずだ。ITを応用した医療機器の開発も進んでおり、イスラエルの医療機器メーカーであるギブン・イメージングのカプセル内視鏡は、報道などで目にした方も多いだろう(写真1)。

 現在、国際世論を含め、情勢は非常に厳しいものの、そうしたさなか、イスラエルに関連するIT関連の話題は継続している。米国の大手IT企業がイスラエルのベンチャー企業を買収したというニュースはもはや日常茶飯事だが、日本の企業もイスラエルのベンチャー企業、それを生み出すエコシステムを自社のイノベーションにつなげようとする動きが出てきている。

 7月18日にはトヨタグループのトヨタIT開発センターがイスラエルでハッカソンを開催することを発表(関連記事:トヨタIT開発センターがイスラエルでハッカソン、クルマ情報使いアイデア発掘)。トヨタIT開発センターとハッカソンを共催するベンチャーキャピタル/インキュベーターのサムライインキュベートは、イスラエルのテルアビブに日本のスタートアップなどが利用できるコワーキングスペースを7月31日に開設する(サムライインキュベートがイスラエルで起業家支援、コワーキングスペース開設)。

 こうした表に出てくる動きだけでなく、ここ数年、多くの日本の企業がイスラエルを視察し、欧米や韓国の企業の後塵を拝してはいるものの、現地に研究開発拠点を設けようとの動きもある。民間企業がイスラエルに関心を寄せる一方で、政府もイスラエルとの関係を深めている。

写真2●2014年7月6日にイスラエルを訪問した茂木敏充経済産業大臣(右)。左はイスラエルのナフタリ・ベネット経済大臣。イスラエル経済省との間での産業R&D協力に関する覚書に署名した。出典:経済産業省HP
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 5月にイスラエルのビンヤミン・ネタニヤフ首相が来日。安倍晋三首相と会談し、産業分野の共同研究開発(R&D)などを含めた「包括的パートナーシップ」の構築に関する共同声明を発表した。これを受け、7月6日に茂木敏充経産相がイスラエルを訪問。同国経済省との間で産業R&D協力の枠組みに関する覚書を締結した(写真2)。この枠組みの下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とイスラエル産業技術研究開発センター(MATIMOP)が両国企業の共同研究を支援する。

 こうした矢先の紛争である。実は似たような状況は数年前にもあった。2007年にイスラエルのベンチャー企業、セレブライトを買収したサン電子の山口正則代表取締役社長は次のように語る。

 「2007年ころ、政府が旗を振って、イスラエルとの経済交流に積極的に動き出し、日本企業の視察ツアーなども目にしたが、ガザで紛争が起こるとパタリと止まる。人事部が出張禁止にしてしまい上げ潮ムードが冷めてしまった。日本企業が『イスラエルの企業をパートナーに』と考えて交流を始めても、何かあると日本側が手を引く。そういうことが繰り返されている」。

 イスラエルとの関係構築についてはそれぞれの企業の事情や判断があるため、ここで何か結論めいたことを言うつもりはないが、ITを掲げる媒体としては、引き続きITイノベーション国家、中東のシリコンバレーとしてのイスラエルには注目していきたい。