日本ではLINEの親会社として有名な韓国のNAVERだが、韓国ではサムスン電子やLG電子並みの大手企業である。NAVERは検索、ニュース、ブログ、動画、音楽、翻訳、オンラインコミュニティ、無料電子メールなどあらゆるサービスを提供するポータルサイトだ。韓国人のほとんどにとって、毎日のように利用しているお馴染みのサイトである。韓国のリクルーティングサイトである「インクルート」が2016年7月、就職活動中の大学生1357人を対象にアンケート調査を行ったところ、もっとも就職したい企業1位はNAVERだった。企業の成長可能性が高いからという理由だった。ちなみにサムスン電子は4位だった。

 そのNAVERは10月24日と25日、ソウル市内で行われたNAVER開発者大会「Deview」で、人工知能やロボットなど未来に向けた研究成果を公開した。この場で公開したのは、音声認識と人工知能をベースにしたアシスタントサービス「AMICA」、自動運転技術、通訳・翻訳アプリ、マップ製作ロボット「M1」、NAVER独自のブラウザー「WHALE」である。2020年までこの分野に1000億ウォン(約90億円)を投資し、独立法人を設立して人工知能を研究する計画であることも明らかにした。

NAVERの開発者大会(出所:NAVER)
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 人工知能は、韓国政府が国策として力を入れている分野でもある。韓国未来創造科学部(部は日本の省に相当)は、「知能情報産業発展戦略」の下で、人工知能の応用研究と実証実験に2016年から2020年まで1兆ウォン(約900億円)を投資することを盛り込んだ。

 こうした背景から、韓国ではほとんどのメディアがDeviewを取材し、「NAVERが検索ポータルサイトから人工知能へ、サービスから技術開発へ変わろうとしている」、「NAVERがグローバル企業との技術競争に乗り出した」などと報じた。

 NAVERの音声認識アシスタントサービス「AMICA」は、AmazonやGoogleのサービスと似ている。違いがあるとすれば、「韓国語を聞き取れる」人工知能である点だ。人の会話から状況を理解して人をサポートしてくれるAMICAを、アプリやスマート自動車などに導入して使うことを想定している。既にサムスン電子のIoTチップセットである「ARTIK」に搭載されており、韓国で有名なホテル予約アプリ、レストラン配達アプリもAMICAを搭載した新しいサービスを開発中だという。NAVERは、スタートアップがAMICAを使って新しいサービスを企画できるようにしている。

 AMICA が目指すのは、生活環境知能(Ambient Intelligence)である。これは、家の中でも道路でも会社でも、人間の生活空間どこでも適応して、環境や状況を理解して自らユーザーが必要とするサービスを提供する人工知能のことである。

 「M1」はNAVER初のロボットである。スキャナーとカメラを搭載しており、ショッピングモールやビルの中を動き回り、自ら高精密室内マップを作る。マップも人工知能と関連がある。人工知能が人間の日常生活を理解するためには、室内に何が置かれているのかをまずマップを見て把握しないといけないという。

 NAVER独自のブラウザー「WHALE」は、5年の歳月をかけて開発したもので、2016年12月にベータ―版を公開するという。特徴としては、ユーザーの動きを判断していらないタブを閉じたり、画像ファイルのまま翻訳できたり、インターネットを使いやすくしたりする。

 Deviewにはイ・ヘジンNAVER理事会議長も参加し、集まった開発者らに技術の重要性について述べた。「インターネットには国境がないので、GoogleやFacebookなど世界の企業と競争するしかない。より多くの資金と資源、人材を確保している巨大グローバル企業と競争するためには、新しいアイデアはもちろん、これを支える技術競争力も基本的に持っていないといけない。人工知能やデータ分析など色々な技術が研究だけの段階を超えて、実際に人々の生活に入って来ようとしている段階なので、これからは技術の戦いになる。素晴らしい技術を持つスタートアップに投資し、協業する機会を増やしていきたい」。

 LINEをヒットさせた経験から自信がついたのか、NAVERは今ヨーロッパを狙っている。人工知能のほかにヨーロッパのスタートアップに1億ユーロを投資することも発表した。イ・ヘジンNAVER理事会議長が日本に拠点を移してLINEの開発に没頭したように、今後はヨーロッパに拠点を移して市場開拓に乗り出すという。韓国の大手企業は、内需が小さい韓国では満足せず世界市場を目指す。NAVERの挑戦も成功してほしいものだ。

趙 章恩(チョウ チャンウン)
韓国ソウル生まれ。ITジャーナリスト。東京大学社会情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく解説する活動をしている。「日経ビジネス」、「日経Robotics」「ダイヤモンドオンライン」、「ニューズウィーク日本版」、「週刊エコノミスト」、「日本デジタルコンテンツ白書」などに寄稿。