ライフログの利活用は,新たな価値を生み出したり業務の効率性を高めたりする可能性を持っている.ビッグデータという名のもとに利活用の動きが進んでいるが,明らかな成功事例として公表されているものはそれほど多くはない.プライバシー面の問題により利活用業務が頓挫したり,プライバシー面を懸念するあまり,ライフログの利活用に踏み出せない企業も出てきている.本稿では,企業におけるライフログ利活用を成功させるために,ライフログ提供者側の心理面からのアプローチで考察を行った.ライフログ提供者がライフログを提供するという判断に至るためには,「データ提供の対価としての付加価値」,および「データ利活用目的」を示すことが重要であり,ライフログ収集側の企業自体が,ライフログ提供者から不信感を持たれるようなことをなくすことも,ライフログを利活用しようとする企業が,考慮すべき課題であることを明らかにした.

1.はじめに

 国家的な方針として,2013年6月に政府が打ち出している「世界最先端IT国家創造宣言[1]」の中で,「革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会の実現」として「オープンデータ・ビッグデータの活用の推進」が掲げられた.この実現に向けて,法制度や環境の整備が進められている.しかし,最近では,プライバシー保護の観点が問題となり,ビッグデータの利活用がうまく進んでいない事態も起きている.その背景として,現行の個人情報保護法[2]と,現在の社会とのズレが生じていることが挙げられる.個人情報保護法制定当時には想定されていなかったパーソナルデータやライフログの利活用が行われるようになり,個人情報,プライバシーに関する社会認識も変化してきている.また,パーソナルデータやライフログの利活用ルールの曖昧さもあり,企業がその利活用を躊躇する要因となっている.

 このような状況を改善しようと,内閣官房,総務省,経済産業省が中心となり,2013年9月から「パーソナルデータに関する検討会[3]」がスタートした.同年12月には「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針(案)」[4]が提出され,2014年6月には,「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱(検討会案)」[5]を発表し,パブリックコメントが実施された.

 一方,企業はマスメディア等で紹介されているビッグデータ活用の成功事例を自社と照らし合わせ,競争優位に立とうとしている.すなわち,多くの企業が,自社で今までためてきたログデータを有効活用することを目的として,データサイエンティストを雇用する,データ解析の専門部門をつくる,解析を行うためのソリューションを導入するなど,ライフログを利活用するための準備を進めている.またITベンダは“ビッグデータ“の解析を行うための大規模なソリューションの開発や宣伝・販売に力を入れ,市場のチャンスを狙っている.

 しかし,ビッグデータのうち,特に個人の情報にかかわるライフログの分析や活用については,企業の思惑通りには進んでいない.これはプライバシーの面で,社会的な問題となる事例も起きているためでもある.

 本稿では,企業におけるライフログ利活用の実態を調査し,ライフログを提供する者(以下,ライフログ提供者という)の心理的側面から考察を行っている.さらには,ライフログ提供者の心理的側面に,プラスの影響を与える項目とマイナスの影響を与える項目について明らかにした.また,その結果から企業が対応すべき点について明らかにした.

1.1 ライフログの定義

 本稿では,ライフログをテーマとしており,パーソナルデータや個人情報とはしていない.なぜなら,利活用の効果が大きいのは,本人の属性情報などのいわゆる個人情報ではなく,個人の行動履歴に基づいて生み出されるビッグデータであると考えているからである.分析において,本人属性情報が有用な場合も考えられるが,その場合であっても生年月日,住所,勤務先などの具体的な情報は必要なく,年齢層,地域,勤務先の業種などのクラスタ化された情報で十分な場合が多いと考えているからである.

 具体的なライフログの定義については,総務省における「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」[6]「ライフログ活用ワーキンググループ」での新しい定義,「利用者のネット内外の活動記録(行動履歴)が,パソコンや携帯端末等を通じて取得・蓄積された情報」[7]を用いている.

 具体的には,ライフログには,

  • 閲覧履歴(Webのアクセス記録,検索語句,訪問先URLや滞在頻度・時間,視聴履歴等)
  • 電子商取引による購買・決済履歴
  • 位置情報(携帯端末のGPS機能により把握されたもの,街頭カメラ映像を解析したもの等)

 などが含まれる.この定義に基づいて,「個人情報」と「パーソナルデータ」と「ライフログ」の関係性を図1に整理した.図1では,「ライフログ」は「パーソナルデータ」に含まれ,その中でも,ビッグデータの利活用として期待されている“非構造化データ”の部分が多く含まれる範囲となる.このうち,データから個人を特定できるものは,個人情報保護法で定義される「個人情報」に該当する.

図1●ライフログの定義
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