2015年2月3日に開催されたソフトウエアジャパン2015のビッグデータ活用実務フォーラムにおけるパネル討論の内容を記録したものです.ただし,パネル討論後に行われたパネリスト間の意見交換での話題を一部盛り込んでいます.

丸山 このパネル討論の司会を務めさせていただく統計数理研究所の丸山でございます.まずは各パネリストの方から自己紹介をお願いできますか.

佐藤満紀氏
花王(株)マーケティング開発部門マーケティング開発センターデジタルビジネスマネジメント室.1990年花王(株)入社.情報システム部門で社内SEとして生産,販売,会計,物流,マーケティング分野の業務システムを担当.メインフレーム,クライアント・サーバ,Webアプリの設計・開発・保守運用を経験.2004年に現職の前進となるデジタルビジネスマネジメントプロジェクトに参加.社内に保有するデータを基礎としてマーケティング活動の最適化を検討.現在マーケティング部門において事業部門と一体となり課題解決のためのデータ分析を実践中.

佐藤 私は情報システム部門で社内SEを14年間経験した後,2004年に発足したマーケティング・データ分析のプロジェクトへの参画をきっかけに,10年間マーケティング部門でデータ分析を行ってきました.マーケティングでは,消費者の行動や態度,ときには本人も意識していない本音の部分の理解が非常に重要だと感じています.講演☆1では,この視点から,日用消費財メーカのマーケティングで実用上大事になるポイントをお話させていただきました.

河本 大阪ガスでビジネスアナリシスセンターという分析専門組織の所長をやっております.9名で年間30ほどの分析プロジェクトに取り組んでいます.特定の組織向けではなく,社内のあらゆる組織向けにデータ分析を用いたソリューションを提供しています.データ分析に要した費用(これには私たちの人件費も含まれます)を受益組織に請求する独立採算制度をとっています.成功したデータ分析の一例を挙げると,給湯器の故障部品を事前に予測することで,メンテナンスマンが交換部品を取りに戻って再訪問する無駄を減らすことができ,即日修理完了率を20%以上も向上させました.講演☆2では,15年前から分析専門組織を続けてきた苦労をもとに,データ分析を単なる分析で終わらせずにビジネスに役立てるまでの壁と,それを乗り越えるために必要な力を述べました.

本橋 私は,研究所で機械学習の研究開発を行いながら,データ分析プロジェクトの推進を行っています.製造・小売・金融・官公庁などさまざまなお客様と機械学習を活用したプロジェクトを行っていますが,データ分析では色々な手間がかかり,いわゆるデータサイエンティストが頑張ってやらなくてはならないことが多くあるのが現状です.したがってデータ分析プロジェクトの推進者は,ヒアリング力・分析企画力・提案力・タスク設計力・分析結果解釈力・説明力・分析システム設計力が要求されます.これらの力は個人差が大きく,多くの人がうまくデータ分析プロジェクトを推進できない問題があります.講演☆3では,この問題を解消し,多くの人がデータ分析をできるようにするために,分析プロセスの自動化や標準化の取り組みを紹介しました.

石井 東京農工大学農学府農学部で生命科学分野のゲノムビッグデータ分析の教育研究に特任教授として2011年から従事しています.もともと,薬学医学の背景を持ち必要に駆られて,2003年からLinuxをベースにRやPerlなどを用いたデータ分析を開始し,主に臨床基礎研究,臨床診断薬研究をはじめ,育種などの農学,環境アセスメントなど,生命科学分野のデータ分析を行っています.近年の業務としてはゲノムビッグデータを用いた精神神経系疾患の診断薬研究などがあり,大学病院に勤務する医師から送付されたマイクロアレイデータ,次世代シーケンサデータを用いた機械学習,データマイニングなどを行っています.

 本日のパネルディスカッションでは他のパネリストの皆様のように,ビジネスに活かすという立場からお話するのは,難しいかもしれませんので,私の研究の一環である医師を対象とした臨床検体のデータ解析受託という立場からお話できればと思います.

丸山 みなさんの講演に共通したこととして,現場に納得させる工夫が重要だというお話がありました.納得させるために必要になってくるのは解釈性だと思いますが,解釈性を与えるという面でどのような工夫をされているか,また,その際に,分析における誤差というものが気になる点ですが,解釈性と併せて誤差をどのように意思決定者に伝えていますか.

☆1 佐藤満紀氏の講演概要はCOLUMNをご覧ください.
☆2 河本薫氏の講演は本特集号の招待論文「「データ分析と意思決定の狭間」とそれを埋める力」の内容に沿ったものでした.
☆3 本橋洋介氏の講演は本特集号の招待論文「分析プロセス自動化・標準化への挑戦―実践に基づく考察―」の内容に沿ったものでした.
COLUMN

 ソフトウエアジャパン2015のビッグデータ活用実務フォーラムでは,パネル討論に先立ち,河本薫氏,本橋洋介氏,佐藤満紀氏から講演があった.河本薫氏と本橋洋介氏の講演については,本特集号の招待論文からその詳細を知ることができるので,ここには佐藤満紀氏の講演概要を掲載する.

<佐藤満紀氏の講演概要>
マーケティングは,消費者の行動や態度,時には本人も意識していない本音の部分の理解が非常に重要である.従来の調査・分析に加え,ITの進化によって扱えるようになったビッグデータ,さまざまな分析手法により得られた知見を総合することで消費者理解を深めることが可能になってきた.その際に,緻密な分析も重要だが,日用消費財メーカのマーケティングでは実用上大事なポイントがいくつかある.自分が重視しているのは次の4点である.

①納得感(分かりやすさ):消費者を理解できるためのヒントをいくつ想像できるか.複雑なブラックボックスになる分析よりも実用性のあるシンプルな分析を選択する.分析結果の可視化も非常に重要である.
②汎用性(他の事業にも使える):ビジネスでは1つの成功もなかなか生まれない.花王(株)では,生活に身近な商品をいくつも提供している.1つ(1回)の成功よりも,他の事業に使える分析といった拡張性や継続性を意識している.
③スピード:企業間競争といったビジネスの場では,分析作業中に課題が変わることもある.必要以上に時間をかけた100点よりも短時間で80点を目指している.ここで注意しなければいけないのは,ミスリードだけはしないという点である.
④枠にとらわれない:教科書通りにはいかないことのほうが多いので,状況に適応するために知恵を出し時には工夫している.

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