大企業との共創を主眼においたアクセラレータのプログラム開発が進めば,国内のスタートアップ企業にとっては,早いタイミングで大企業からの資源動員(人・モノ・金・情報)を獲得できることにより,ビジネスを早期に一定規模に立ち上げる事業基盤を構築できる可能性が高まる.本稿では国内の事例としての西日本電信電話(株)(以下,NTT西日本)の「スタートアップ・ファクトリ」を取り上げ,国内における大企業とスタートアップの共創の取り組みと独自の調査からアクセラレータに求められる機能を整理する.

1.はじめに

 シードからアーリーステージのスタートアップ企業(以下,スタートアップという)に投資と育成支援をするという新しいプレイヤであるアクセラレータが米国では登場している.Y CombinatorやTechstarsに代表されるアクセラレータは株式投資とスタートアップ支援を行うという意味では新しいベンチャー・キャピタルの一種と考えられる.Daniel Fehder and Yael Hcohberg[1]らの先行研究が示唆するとおり,アクセラレータの存在自体がその地域のスタートアップのビジネス・エコシステム(ビジネス生態系)の構築に貢献しており,米国では重要なプレイヤとしてその数も拡大傾向にある.米国ではアクセラレータの増加に伴い,アーリーステージへの投資案件数も増加傾向にある.

 一方,日本国内ではアクセラレータの数は5社程度であり,その数は増加傾向にはない.国内のアクセラレータ・プログラムは米国のアクセラレータをベンチマークにしたプログラムが多い.米国のアクセラレータのモデルをそのまま日本で展開していくだけでは起業する環境やスタートアップを取り巻くリスクマネーの環境の違いから,日本でアクセラレータの数を増加させ,国内のスタートアップが期待するプログラムを開発することは難しいと考えられる.

 こうした観点から,国内でもスタートアップが資金調達に成功し,エグジットに向けた成功確率を上げていくためには国内のスタートアップにとって必要とされるアクセラレータの機能を考察していく必要があると考えられる.本稿では,国内の事例として西日本電信電話(株)(以下,NTT西日本)の「スタートアップ・ファクトリ」を取り上げ,国内における大企業とスタートアップの共創の取り組みや独自の調査から,アクセラレータに求められる機能を整理することを目的とし,国内でアクセラレータを実践する筆者の実務経験も踏まえて考察した.

2.アクセラレータについて

 アクセラレータは独自の起業家支援のプログラムを持つ.プログラム期間は3カ月から4カ月であることが多い.プログラムに採用されるためにはインタビューや書類選考からなる厳しいセレクションがあり,セレクションを通過したスタートアップにはアクセラレータからシード資金として数百万円の投資がある.その見返りに5%程度の株式(多くは新株予約券付転換社債)を取得する.プログラム期間中,スタートアップはプロトタイプを開発することに集中し,その支援をアクセラレータだけでなく,外部のメンターといわれる専門家が行う.3カ月から4カ月後のプログラムの最後には卒業式としてのデモデイと呼ばれる投資家や事業会社向けのプレゼンテーションがあり,スタートアップは投資家や事業会社からの資金獲得を目指す.アクセラレータは主にシードからアーリーステージにある起業家を育成して,ベンチャー・キャピタルなどの投資家から資金提供を呼び込むことで,投資先スタートアップの時価総額を短期間で飛躍的に向上させる.投資先スタートアップのバリュエーション(企業価値)が上がることでアクセラレータが保有している株式の価値が向上し,保有株式を売却することで利益を獲得するモデルである.

 本稿ではアクセラレータの定義を,Cohen and Hochberg[2]の定義である“A fixed-term, cohort-based program, including mentorship and educational components, that culminates in a public pitch event or demo-day.”

 「定まった一定期間,メンタリングと起業に関する教育を受けながら,コホート(同期・同僚)・ベースのプログラムにより,パブリック・イベントまたは,デモデイと呼ばれるプレゼンテーションを行うプログラム」を援用する.

 Cohen[3]によると,アクセラレータはインキュベータと区別されずに議論されることがあるが,オフィス貸与がメインでなく,株式投資とメンタリング提供という点でモデルが異なる新しいプレイヤである.またエンジェル投資家とはスタートアップに投資を行うという点では同じであるが,バッヂと呼ばれるコホート,エデュケーション,メンターシップ,デモデイを実施する独自のプログラムを持つという点では異なるモデルである.

 現在,シードからアーリーステージのスタートアップに投資と育成支援をするという新しいプレイヤであるアクセラレータは米国を中心に世界中に広がっている.アクセラレータの数は2006年の25社から2013年には170社を超えている.シリコンバレーやニューヨークだけでなく,ボストン,ワシントン,テキサスのオースティン,コロラドのボルダー等でアクセラレータが中心となり,投資家,起業家,弁護士や会計士,コンサルタントなどの起業支援のプロフェッショナルサービスから構成されるスタートアップ・コミュニティを形成している.

 Daniel Fehder and Yael Hcohberg[1]らは,2005年から2012年の間に設立された59の米国のアクセラレータと38の都市(MSA=Metropolitan Statistical Areas)をサンプルにして分析をした結果,アクセラレータの存在自体がその地域のスタートアップのビジネス・エコシステムの構築に貢献するというデータを報告している.その理由はアクセラレータが開催するパブリックイベントであるデモデイやメンターシップなどの活動自体がベンチャー・キャピタルを引き寄せるため,アクセラレータが存在しない地域からアクセラレータが存在する地域に投資資金が移動するという.そして投資資金が集まる地域にスタートアップも集まるため,スタートアップのビジネス・エコシステムが形成されていくと報告している.

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