本稿では,京都を本拠とするNPO法人ミラツクがこれまで手がけてきた社会課題解決のための産学官連携事業の事例をもとに,オープンイノベーションの概念を用いた社会課題解決型の社会事業開発の新たなプロセスを構築し,そのプロセスの4つの特徴とその有効性を示した.4つの特徴とは,①個人同士で構築される関係性によるオープンさの確保,②社会課題解決という共通課題の設置によるオープンさの確保,③取り組みを通じて,場に参加できない個人の意見を取り込むこと,ならびに④未来の利害関係者の意見を取り込むこと,である.当プロセスの有効性は,NPO法人ミラツクが生活共同組合コープこうべの次代コープこうべづくり推進部と協働して行った事例を用いて確認した.本事例は,高齢者の孤立を解消するという社会課題を用い,新規事業開発プロジェクトに取り組んだものである.その結果,オープンイノベーションの概念を導入した社会課題解決型事業開発プロセスの設計は有効であることを示した.

1.研究の背景

1.1 研究の目的

 人口高齢化や少子化,貧困や格差など社会課題解決のためには,多様な課題の当事者に開かれた,課題解決の場の設計が必要との指摘がしばしばなされている[1],[2].そして課題解決の場を課題の当事者への開放性の確保のために,オープンイノベーション[3]の概念を導入した社会事業モデルの構築の必要性が論じられている[4].他方でこうした社会課題解決の担い手として期待されているNPO法人等が事業構築する際の開放性の確保が十分ではなく[5],さらに,オープンイノベーションの概念を本格的に導入した社会課題解決のための事業モデルの構築は萌芽段階との指摘がある[6].

 本稿の目的は,社会課題解決の事業開発プロセスにはオープンイノベーションの概念を具体的に盛り込む必要があるとの上記の問題意識に立ち,4つの特徴を含む社会課題解決型の新たな事業開発プロセスを示し,実例を用いてその妥当性を示すことである.

 オープンイノベーションの概念を用いる社会課題解決の事業開発プロセスの特徴は4点あり,以下である.①個人をつなげて構築される関係性によるオープンさの確保,②社会課題解決という共通課題を設置することでオープンさを確保すること,③取り組みを通じて場に参加できない参加者の意見を取り込むこと,ならびに④未来の利害関係者の意見を取り込むこと.

 本稿では次いで,この4点の特徴が組み込まれた社会課題解決型の事業開発プロセスの事例として,生活協同組合コープこうべ(以下,コープこうべ)と特定非営利法人ミラツク(以下,ミラツク)が協働した事業について述べる.その結果として,この事業開発プロセスが有効であることを示す.

1.2 研究の背景

 Chesbrough[3]は,オープンイノベーションとクローズドイノベーションという2つの言葉を対比し,クローズドイノベーションが崩壊の危機に直面していると述べた.一方で「オープンイノベーションは,企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ,価値を創造することをいう」と定義し,Chesbroughは表1のようにクローズドイノベーションとオープンイノベーションを比較している.

表1●クローズドイノベーションとオープンイノベーションの比較(Chesbrough)
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 Chesbroughの議論では,クローズドイノベーションとオープンイノベーションの両方において企業を主として対象としたものであり,イノベーションの担い手は企業であることを想定している.他方,谷本ら[4]はオープンイノベーションとソーシャルイノベーションの類似性について述べた上で,イノベーションを起こすのは誰なのかという議論に対し,「それは企業家個人にとどまらず,組織内部・外部における従業員,専門性を有した人あるいは組織,顧客・ユーザが主体となることが確認された」と述べており,社会課題解決を目的とするソーシャルイノベーションにおいて,オープンイノベーションの担い手が職員,専門家,顧客等多様な人である可能性を示唆している.しかし谷本らは,これらの多様な人が関与して発生する社会事業のオープンイノベーションのプロセスの設計は行っておらず,オープンイノベーションの概念を取り入れた社会課題解決の事業開発プロセスの具体的な設計とその手法の確立が待たれている状況にある.

 このため,本研究は,Chesbroughのオープンイノベーションの概念を,谷本らが示唆する人が関与する社会事業開発プロセスに適用した.オープンイノベーションの概念を導入した社会課題解決型の事業開発プロセスには4つの特徴があることを示し,さらに実例を用いて同プロセスの有効性を示すことで,社会事業における新たなプロセスを確立するものである.

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