高齢化社会の到来とともに関節疾患の増加がみられる.その治療の1つとして人工関節が活用されているが,さらに個別患者特有の骨格に対応するためにカスタムメイド人工関節の研究開発を進めており,すでに実用域にある.カスタムメイド人工関節製造プロセスでは,コンピュータを活用した術前計画が行われ,また3D-CADによる3Dモデルを活用して医療機関の承認を得た後,3D-CADデータから3Dプリンタ技術の1つである電子ビーム金属積層造形技術を通じてカスタムメイド人工関節を製造し,患者に適用する.本稿では,研究開発段階から3Dプリンタ技術を適応した実践的な製造プロセスについて説明する.

1.はじめに

 3Dプリンタ技術は,医療機器製造への活用が始まりつつあり,特に研究開発現場で多く活用されている.他方で,骨関節インプラントのように生体材料の製造については,薬事法の規制の下で薬事承認に向けた活発な動きがあり,いくつかについては薬事申請中である.そのため,整形外科カスタムインプラントに関する評価指標,3D積層技術評価指標,カスタムメイド人工関節の開発ガイドライン等も含めた生体安全性へのガイドラインに従った開発をする必要がある.

 生体材料の1つであるカスタムメイド人工関節製造に向けた研究開発に焦点を当てた3Dプリンタ技術として,電子ビーム積層造形技術活用におけるプラクティスについて次のとおり説明する.まずカスタムメイド人工関節の必要性について説明し,薬事申請下の研究開発では,具体的な3Dプリンタ技術の活用に向けた技術開発結果が,製造プロセス構築の1つとして捉えられることを示す.その上で3Dプリンタ技術による製造プロセスの実践状況を示し,今後の展望について述べる.なお,電子ビーム積層造形技術の説明については,筆者らによる文献[1]にさらに詳細な内容を記載している.

2.カスタムメイド人工関節

 高齢化社会になり,変形性関節症,関節リウマチ,骨折などの関節疾患が増加している.変形性関節症は高齢化に伴う筋力の低下や肥満などのため,関節の機能が低下して起こる.軟骨部分の変性や適合性の悪化から変形・炎症を起こして最終的には歩行困難となる.図1のとおり,厚生労働省による平成20年患者調査[2]では,平成8年に比べ特に女性患者について大幅に増加がみられる.

図1●関節症患者数の増加(文献[2]より帝人ナカシマメディカルが作成)
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 この状況下で股関節や膝関節に人工関節置換術を行う患者数が増加している.人工関節(図2図3)は,ソケットをプラスチック(ポリエチレン),金属,セラミックスで構成し,ヘッドをセラミックス,金属で製造しており,この部分が滑ることで関節の機能を果たしているが,既製品の人工関節では臨床上対応できないことがある.たとえば関節の骨形状,骨欠損,変形が起こっている場合,個々の患者に対して設計されるカスタムメイド人工関節が必要となる.カスタムメイド人工関節の優位性に関してはガイドライン等で示されており,特に下肢関節である股関節については,人の生活の基礎となる体幹の支持,歩行確保などに欠くことができないものである.また,医療機器メーカ側としては,従来の加工方法での患者別受注生産は生産コストが見合わない,骨と融合する部分の多孔質は同時に製造することができない等の課題があった.

図2●人工関節
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図3●従来の加工法による人工膝関節の例
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 人工関節を設置する手術では,多くの手術器械を駆使し,骨切除量やインプラント設置位置の確認に時間がかかる問題があるが,他方でNavigation System(コンピュータ支援手術)では,導入に多額の費用が必要である.これを改善するために,パーソナライズドカッティングガイドを開発している.患者のCTデータを基にコンピュータ上で術前計画を行い,患者個々の骨形状に合わせて骨切除用に作製される.症例数が少ない医療従事者にとっては,手術器械の取り扱いがある程度容易で,かつ臨床成績が得られる器械として期待されている.既製品を用いた治療について優れた臨床成績を得られ,患者のQOL(Quality Of Life)向上および医療従事者の負担軽減を含め医療経済上においても有益になっていると考えられる.

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