ボイスメディア「Voicy」を運営するVoicyは2019年に資金の大型調達を行った。2月には、グローバル・ブレインや、TBSイノベーション・パートナーズおよび電通イノベーションパートナーズがそれぞれ運営する投資事業組合、中京テレビ放送などを引受先とする第三者割当増資を行い、約7億円を調達したと発表した。3月には、朝日放送グループホールディングスの子会社のABCドリームベンチャーズや文化放送などを引受先とする第三者割当増資により、約1.2億円の資金を確保したとしている。Voicyは今回の資金調達の目的として、「技術組織の増強」「新しい音声コンテンツの開発」「ブランディングや企画」「新しいサービス開発」を挙げる。

 ボイスメディア「Voicy」では、個人や企業が開局した約200チャンネルが随時、音声コンテンツ(番組)をアップロードし、配信している。リスナーは好きな時間にスマートフォンやパソコン、スマートスピーカーを通じて番組を聴取できる。Voicyは「Voicy」の運営のほか、自社の音声プラットフォームを他社に提供する事業も展開している。

 同社の代表取締役CEOを務める緒方憲太郎氏は、IoT時代の音声配信インフラを作り、音声の機能性を最大化して、人が生活しながら快適に情報を得る社会の実現を目指す。「音声体験とコンテンツをリデザインし、声の人間性を最大化して、人の温かさや感情価値を届けられるマスメディアを作り上げる」ことを目標として掲げている。緒方氏に、事業の現状や今後の展望について聞いた。

(聞き手は本誌編集長、長谷川博)

Voicy 代表取締役CEOの緒方憲太郎氏

ボイスメディア「Voicy」を立ち上げた理由は。

緒方 従来のメディアでは情報を得ようという場合、自分がそれまで行っていた動作を一度止めて、紙面や画面に目を向ける必要がある。こうした現状を変えたいと思っている。音声で情報を届けるメディアであれば、人は動作を止める必要がない。モニターレスで生活に密着する「ライフフィットメディア」として「Voicy」を立ち上げた。

音声メディアとしては既にラジオが存在する。

緒方 「Voicy」とラジオはいくつか違いがある。「Voicy」は、当社が提供するアプリがあれば、いつでもどこでも音声番組の収録ができる。台本もなく、編集をする、しないも自分で判断できる。ラジオのように、決められた時間にスタジオで台本に沿って収録を行う必要はない。

 これまでは、リスナーが関心を持ちそうな話題を持っている人がいても、音声コンテンツとして発信するのはなかなか大変だった。「Voicy」の開始によって、これまで音声番組を発信したくてもできなかった人に門戸を開くことができた。ラジオは、音声ならではの温かさや、音声だけだからこそ頭に染み込むといった魅力を持つ。「Voicy」は、こうしたラジオの特徴を持つとともに、機能性を高め、大衆化したサービスといえる。

「Voicy」の特徴は。

緒方 チャンネルベースの話をすると、個人が開局したチャンネルは、パーソナリティーの人となりがそのまま出るようなものになっている。一方で、「Voicy」がプラットフォームとして提供するチャンネルでは、しっかりとした内容のコンテンツを出すようにしている。二つの異なる魅力を提供している。

 メディアとしての特徴を言うと、オンデマンド型の音声サービスなのでリスナーはいつでもどこでも、作業をしながらでも聴取できるため習慣化しやすい。「Voicy」ではまだ音声広告を配信していないが、音声メディアにおける広告配信中の離脱率は数パーセントと言われている。継続的に聴いてもらうことでじわじわと好感度や認知度を高めるというのは音声メディアが得意とするところだ。将来的にはブランド広告を出稿してもらえるようなメディアにしていきたい。

2019年に調達した資金の用途は。

緒方 音声コンテンツの制作者と配信先の拡大に向けて、必要なインフラや技術の開発のために資金を投じたい。米国や中国の状況を見ると、音声ならではの面白いコンテンツが生まれて、市場も拡大している。日本でも面白いコンテンツができれば、そういう状況になるという確信がある。そのためには多くのリスナーが関心を持つコンテンツを一緒に作れるパートナーを探したり、自分たちで作ったりすることが必要だ。音声広告の開発にも資金を活用したい。

Voicyの会社としての収入源は。

緒方 「Voicy」の一部のチャンネルには、チャンネルをサポートするスポンサーが付いている。パーソナリティーはスポンサーから得た収入の一部を当社に支払っている。また当社が構築した音声プラットフォームを他社も利用できるようにしており、このプラットフォームを通じてスマートスピーカーなどの端末に音声コンテンツを配信している企業などからシステム利用料を受け取っている。さらに企業などに対し、例えばその企業が社内限定で使う音声チャンネルを有料で提供するといったことも行っている。メディア事業とインフラ事業のどちらが収入の柱になるかを考えながら進めているところだ。

黒字化は達成しているのか。

緒方 今回の資金調達の前に、半期ベースで黒字化を達成している。しかし日本の音声コンテンツ市場が小さい中で黒字を維持するのはあまり意味がない。日本の音声コンテンツ市場をより大きなものにするため、新たに資金を調達し、当面は赤字になるのを覚悟のうえで事業拡大を図ることにした。今は市場を拡大するフェーズだ。生活に密着する形での音声コンテンツの利用を文化として根付かせることを目指す時期と認識している。

「Voicy」のリスナーの聴取データはどのような形で活用しているのか。

緒方 聴取データは、有料でチャンネルを開局している企業に提供している。具体的にどのような聴取データを提供しているかは話せないが、その企業のチャンネルが全曜日の全時間帯にどれくらい聴取されているか、分かるようにしている。その日に配信した番組が多く聴かれた時間帯が朝なのか夜なのかを把握できる。企業は番組の配信時間や内容を見直す際に聴取データを参考にできる。

今回の資金調達によって、テレビ局などとの関係性が深まった。

緒方 今回の資金調達は、テレビ局やラジオ局、広告会社との協業を前提に実施した。テレビ局やラジオ局とは、例えばコンテンツ制作やタレントの発掘、イベント開催、コミュニティー創設などを共同で実施することをイメージしている。広告会社とは音声広告やコンテンツの制作の面で共同での取り組みを進めていきたい。

 さらに今回の資金調達によって、米国のデザインコンサルティング会社であるIDEOが出資するベンチャーキャピタルが株主に名を連ねた。音声の新たな体験をデザインする作業をIDEOと一緒に進めるべく、出資を受け入れた。

緒方さんは音声の特徴として「人の感情を載せることができる」点を挙げている。

緒方 今は情報が日常にあふれており、その価値が相対的に下がっている。一方で、現在は個人の時代であり、さみしさや孤独感を覚える人も少なくない。そうした中で、人間の感情の変化を表す感情情報が最後のコンテンツになるのではないかと考えている。例えばイチロー選手の引退会見では、何を話したか、ということだけでなく、どの場面でどういう声でコメントをしたか、という点にも関心が集まったのではないか。また、洋画のファンには吹き替え版よりも字幕版を好む人も少なくない。これは出演者本人の声を聞きたいというニーズがあるからだろう。本人の感情情報が載る音声はエキサイティングであり、エンターテインメント性もあるのではないかと考えている。

今後の目標は。

緒方 音声の世界の中で一番強いリーディングカンパニーになることを目指す。ユーザー数や音声技術の面で存在感を持つとともに、音声コンテンツ市場でのマネタイズを実現する一番の会社になりたい。

 これらの目標は2020年度までに実現したい。海外における音声コンテンツ市場の拡大速度を考えると、このくらいのスピード感は必要だ。新たな市場を立ち上げるのは容易ではないが、人一倍挑戦心を持って取り組んでいる自負がある。できる限り業界を引っ張っていきたい。

 自社だけで日本の音声コンテンツ市場を拡大するのはなかなか難しい。当社は音声プラットフォームを持っているので、これを競合先を含めた事業者にも使ってもらって収益を上げてもらう、ということにも取り組んでいきたい。

出典:日経ニューメディア 2019年8月26日号 pp.3-5
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