2019年6月12日付の新聞各紙が、携帯電話を2年契約の途中で解約する際の違約金を現在の9500円から1000円以下にすること、さらに通信の継続利用を前提とした端末値引きを禁止し、継続利用を条件としない場合も2万円を上限とすることを報じている。

 今夏を目途に答申をとりまとめ、秋までに省令を改正するのが前提であること、しかも7月には定期の人事異動も迫っていることを考えると、当局も突貫工事で作業を進めていることが想像される。しかし、それにしても不可思議な案が持ち上がってきたものである。

<なぜ、端末割引の上限は2万円なのか>

 今回の改正電気通信事業法の基本的な考え方では、通信サービスと紐づく携帯端末の値引きを制約するが、通信サービスと紐づかない携帯端末については特に制約するものではない。より正確には「利用者に対し、当該契約の解除を不当に妨げることにより電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害する恐れがある提供条件を約すること等をしてはならないこととする」ものである。

 携帯電話キャリアからすれば、通信サービスの継続的な利用に紐づかないので、携帯端末を値引きするインセンティブはそもそも乏しい。強いていえば新規加入時ぐらいである。値引きのインセンティブを有するのは端末メーカーであるが、値引きしても数量が伴わなければ利益の減少にもつながりかねない。つまり、通信サービスに紐づかない値引きは一方的に消費者にとっての利益なのである。この値引き額を当局が指定する、しかも有識者研究会で議論するとはいったいどういうことなのか。

 第一にこれは消費者利害に反する行為である。第二にこれは一種の価格カルテルである。ちなみに携帯電話キャリアからは3万円という値引き額も提示されていたのに、2万円に抑制するということはわざと消費者に負担を押し付けることになる。しかも一律横並びはカルテル的行為である。

<違約金値下げは月額料金値上げインセンティブに>

 途中解約の違約金であるが、利用者を対象とした政府のアンケート調査によると、8割を超える人が許容できると答えた違約金の水準は1000円だったから1000円にするという。消費者アンケートで政策を決めることができるならば政府で議論する必要はない。だいたい違約金は安ければ安いほどいいと消費者が回答するのは当たり前である。

 この違約金の引き下げは携帯電話キャリアの経営、特に料金戦略にとっては非常に大きなインパクトがある。携帯電話キャリアは解約率、顧客獲得コスト、減価償却費、一般管理費などを考慮し、顧客生涯価値のシミュレーションをしながら月額の料金を決定しているからである。違約金が1000円であれば、解約率が上昇する。となれば、携帯電話キャリアは逆に料金を値上げして、顧客生涯価値を一定以上に保とうとするであろう。

 つまり、違約金を下げることは当局の思惑とは別に携帯電話キャリアに月額料金の値上げインセンティブをもたらすのである。

<省令作成は無期延期を>

 総務省はなぜいつも標準的な経済学とは逆の政策を打ち出すのだろうか。政策の矛盾を指摘する有識者研究会の構成員は誰かいないのだろうか。このペースで6月18日にとりまとめを行うことができるとはとても思えない。

 以前の本稿でもとりあげたように、結局はMNOの参入数が増えて、実質寡占構造が崩れるしか料金競争は起きない。当局が携帯電話キャリアの料金戦略の箸の上げ下ろしに関与するようでは、またも当局と携帯電話キャリアとの間でいたちごっこが起こりうる。現に、改正事業法の施行を見越して新しい料金プランを発表した携帯電話キャリアは、さっそく料金プランの見直しをせざるをえない。

 省令作成は無期延期し、10月の楽天参入まで積極的無策を決め込むべきだ。

出典:日経ニューメディア 2019年6月17日号
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