ソフトバンクグループは2017年11月、米国子会社で携帯電話4位のスプリントと、同3位のTモバイルUSの合併に向けた交渉を打ち切った。孫正義会長兼社長によると、TモバイルUSの親会社であるドイツテレコムが合併後の新会社について単独の経営権を要求。ソフトバンクグループも米国は戦略的に重要な拠点と考えており、「経営権を手放してまで合併すべきではない」と判断したという。

合併交渉中止について説明する孫正義会長兼社長
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 米国の一部報道ではスプリントの統合先としてCATV大手の名前も挙がる。だが、孫社長は「相手や条件次第で何でもあり」としつつ、「スプリントは半期で2000億円の営業利益を出せるようになった。単独でも悪くない。焦って悪い条件に飛び付く必要はなく、少しゆったり構えようかなと考えている」と胸中を吐露した。再編の意欲は一気にトーンダウンした印象だ。

 結局、米国の携帯電話市場はベライゾンとAT&Tの2強、TモバイルUSとスプリントの2弱という「2強2弱」の構図がしばらく続きそうである。孫社長がスプリントの経営権にこだわる限り、攻めの再編は起こりそうにない。かといってスプリント単独では勝ち目もなく、ますます弱体化していくだけ。孫社長は「5年後、10年後を考えれば正しい判断」と説明したが、置かれた状況は相当に厳しいというのが実情だ。

スプリントの苦境を誰もが分かっている

 スプリントを「最悪」と評するのは、米ケリー・ドライ・ウォーレン法律事務所でパートナーを務めるトーマス・コーエン氏だ。同氏は通信業界に40年近く関わり、米連邦通信委員会(FCC)で10年以上にわたって法務顧問補佐を務めた経験を持つ。

米ケリー・ドライ・ウォーレン法律事務所でパートナーを務めるトーマス・コーエン氏
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 最悪と評する理由は、スプリントが設備投資を怠っているから。コーエン氏によると、AT&Tやベライゾンは有線と無線のインフラにそれぞれ年100億ドル規模の投資を続けているにもかかわらず、スプリントの設備投資は全体で数十億ドル規模にとどまる。顧客規模が違うとはいえ、同等に設備投資しなければ負ける。米国の携帯電話市場は投資が競争の優劣を決めており、規模の経済が働く大手でなければ生き残りは厳しいという。

 コーエン氏はスプリントに対し、「Big or go home」(筆者の解釈では「大規模投資せよ、できないのであれば退出せよ」)と厳しい。

 設備投資が少ないのはTモバイルUSも同じ。ただ、同社は2013年2月に「アンキャリア」(脱キャリア)戦略を掲げ、携帯電話業界の慣行や常識を打ち破ると宣言。新たな施策を相次ぎ投入し、顧客獲得に成功している。ソフトバンクがNTTドコモやKDDI(au)の顧客を奪って成長したのと同様、ベライゾンやAT&Tの顧客を取り込んで右肩上がりの成長を続ける。スプリントに比べれば、未来はまだ明るいと言える。

 スプリントのこうした状況は、米国の通信業界の誰もが分かっている。孫社長が経営権を握りたいと主張しても、受け入れられるわけがない。合併相手が絶好調のTモバイルUSとなれば、なおさらだ。

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