特定のアプリケーションの課金をゼロにする「ゼロレーティング」。日本でもプラスワンマーケティング(FREETEL)やNTTコミュニケーションズ、LINEモバイルといったMVNO(仮想移動体通信事業者)が採用している。一方、欧州のオランダなどではゼロレーティングがネットワーク中立性の議論に混乱を招いている。

 欧州連合(EU)で2015年11月に発効したネットワーク中立性規則(以下、EUネット中立性規則)は、各加盟国が2016年4月30日から適用を始めた。その後、各国の通信規制機関トップで構成するBEREC(欧州電子通信規制者団体)が同8月30日に同規則の施行ガイドライン(以下、BERECガイドライン)を発表した。これらはEU域内で統一的なオープン・インターネット・アクセスを保証するルール作りを目指したものだった。

 しかし、早くも一部の重要な項目に関して足並みの乱れが生じている。その混乱を生み出しているのが、日本でも話題の「ゼロレーティング」である。今回は、論争が最も先鋭化しているオランダを例に、ネット中立性が内在する問題の多様性と、曖昧性ゆえの政治介入性について解説する。

各加盟国がケースバイケースで審査

 BERECガイドラインではゼロレーティングを次のように定義している。「…ISPが特定のアプリケーションもしくはアプリケーション群(カテゴリー)に関係するデータトラフィックに対して、ゼロ料金を適用することである(そして、インターネット接続サービス(事業者)が導入しているいかなるデータ上限に対しても、それらのデータはカウントされない)…」(文中の「事業者」は筆者が挿入)。

 ネット中立性の擁護団体などは「ゼロレーティングはユーザーではなくISP自身による優遇的な接続先(すなわちコンテンツ)の選択である」として反対してきたが、EUネット中立性規則はゼロレーティングを一律に禁止せず、個々の事例についてケースバイケースで審査する権限を加盟国の規制機関に付与した。その理由は、ゼロレーティングは基本的にはISPとユーザー間で合意される商慣行であり、その適否はゼロレーティングがもたらす「イノベーションの促進」と、それがインターネットの「公平、非差別的な利用を阻害する可能性」の正負のバランス分析を通じて決定すべきとEUが考えたからである。

 ただし、EUネット中立性規則自体には審査基準の記述が少ないため、詳細化と明確化はBERECガイドラインに任された。蓋を開けてみると、ゼロレーティング審査に関する主な基準は大きく6項目となった(表1)。一見すると具体的に見えなくもないが、定性的な記述が中心であり、頻出する「影響」という言葉の範囲や程度は関係者の主観に任されている。英国、ドイツ、イタリア、スペインなど加盟国の大半の国々は、問題が顕在化するまで介入しそうにない。

表1●BERECガイドラインのゼロレーティング審査に関する主な記述
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 その一方で、オランダ、スウェーデン、ハンガリー、スロベニアは厳格な解釈を行う姿勢である。既に規制機関と事業者間で論争が起こっている。例えばスウェーデンでは、同国最大の通信事業者であるテリアのゼロレーティングサービスに、規制機関のPTSが暫定差し止め命令を出した。これに対し同社は「ユーザーはサービス選択の自由を保証されており、PTSはEUネット中立性規則を狭く解釈しすぎである」と述べている。またハンガリーでも規制機関のNMHHと最大手事業者のマジャール・テレコムとの間で同様の事態が進行している。

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