政府のIT総合戦略本部新戦略推進専門調査会の電子行政分科会は2月、「新たな電子行政の方針についての考え方」を取りまとめた。少子高齢化や人口減少などの社会環境の変化を受け、行政サービスのあり方を抜本的に見直す。基盤となるのが「サービスデザイン思考」である。分科会委員を務め利用者視点の改革を訴えてきたアスコエ代表の安井秀行氏に、背景や意義を聞いた。

(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)

政府が「サービスデザイン思考」を基盤に行政サービスの改革に乗り出す方針を固めました。

アスコエ 代表 安井 秀行氏
(写真:佐藤 久)
[画像のクリックで拡大表示]

安井 「新たな電子行政の方針」は、6月ころにはIT総合戦略本部で決定されるはずです。新方針を検討している電子行政分科会では、その考え方としてサービスデザイン思考を大きく盛り込みました。

 私自身はサービスデザイン思考の専門家ではありませんが、行政機関や民間企業を対象に、同様の考え方でコンサルティングを実施してきた立場で議論に参加しています。

なぜ今、電子行政サービスを見直すのでしょうか。

安井 これまでの電子政府・電子行政は、電子申請を典型として、国民が行政手続きを電子的に行えるようにすることが目的でした。行政事務を効率化する狙いもあります。

 一方これから目指すべきは、電子的に手続きができるだけでなく、「サービス」として使って便利で、使いやすく、満足できるものです。

 インターネットの活用も重要な要素になり、スマートフォンも普及し、さらにIoTやAIも活用できるようになっています。電子政府・電子行政を「サービス」として提供するなら、こうしたデジタル技術の恩恵をちゃんと受けられるようにすることも重要です。

▼IoT
Internet of Thingsの略。
▼AI
Artificial Intelligenceの略。人工知能。

検討に当たって、お手本のようなものはあったのでしょうか。

(写真:佐藤 久)
[画像のクリックで拡大表示]

安井 電子政府・電子行政をサービスとして位置付ける考え方は、欧米が先行しています。例えば英国政府はデジタルサービスを開発・運用するための「デジタルサービス・スタンダード」を定めています。米国政府も、民間などの成功事例を基に、政府がデジタルサービスを提供するためのガイドライン「デジタルサービス・プレイブック」を定めました。

 両者に共通しているのが最優先項目に「利用者のニーズを理解せよ」と掲げている点です。提供者視点ではなく、利用者である国民が何を望んでいるかをきちんと理解することを非常に強調しています。

 翻って日本での電子政府の取り組みでは、電子申請の達成率やシステム投資の効率化を主な指標としてきました。政府CIOが設置されて以降、その取り組み自体は大きな成果を上げてきましたが、それによって国民がどれだけ便利になったのか、満足度がどれだけ上がったのかという視点は、まだこれからという段階です。

 以前は電子申請の仕組みも行政機関の情報サイトもなかったので、まず作ることが大事でした。でもこれからは、国民にとって何が必要かを考え、利用できるデジタル技術を駆使して、便利なサービスとして提供していくことが重要です。

急に「サービス」と言われても難しいのでは。サービスデザインをどう理解すればよいのでしょう。

安井 逆を考えると簡単です。つまり「プロダクト」ではないということ。プロダクトとは行政制度や行政システムであり、これらをデザインするのではありません。また「プロダクトデベロップメント」とも違います。行政制度やシステムをただ作るだけではありません。

 「サービス」とは奉仕することです。プロダクトを作ることとは違います。

 「デザイン」には2つの要素があります。一つは利用者が大切なことです。利用者がいるので、利用者を理解することが大切な要素です。具体的には、UX/CXを分析したり、「ペルソナ」と呼ぶ利用者像を設計して行動を分析したりする方法があります。

▼UX/CX
ユーザー・エクスぺリエンスとカスタマー・エクスぺリエンス。一般に、前者は単一の商品/サービスの使い心地を高めることを指すのに対し、後者は複数の顧客接点での利用体験の改善を目指す。
▼ペルソナ
アンケート調査やグループインタビューに基づく情報を分析・統合して設計する典型的な利用者像。

 もうひとつの要素は、デザインにはデザイン手法というプロセスがあることです。利用者の行動・思考・感情などを時系列で整理した「カスタマー・ジャーニー・マップ」や、「PLAN-DO-SEE-CHECK」のサイクルを回して「作っては壊す」を繰り返すことなどです。

 従来のプロダクトデベロップメントの手法ではなく、サービスをデザインする手法で進めるわけです。

この先は会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら