5月17日にわが国では前代未聞の大規模な住民投票が行われる。“大阪都構想”の賛否をめぐる住民投票である。対象は大阪市の全有権者、約215万人である。総投票数の過半数が賛成を投じると大阪市は無くなり、東京と同様の5つの特別区に再編される。これは大都市地域特別区設置法の規定による住民投票である。その後の地元の議会や首長の意思決定を必要とせず、自動的に結果が決まる。

全国への意味合い

 都構想をめぐる各種報道を見ると、本件を大阪特有のローカル課題ととらえ、他地域への影響はあまりないといった見方が多い。しかし、これは間違いだ。直接、すぐに影響を受ける自治体はないだろうが、だんだんとボディブロー的に影響が全国に広がるだろう。

全国の政令市への影響

 今のところは他都市で「政令市を廃止して特別区にしたい」という動きはあまり見られない。だが、大阪でこれが実現し、その後に予定される法改正で大阪府が「大阪都」に改名されると、「後に続くべきではないか」という意見が各都市で出てくるだろう。

 まず、最初に道府県と政令市の二重行政の総点検が本格的に行われるだろう。政令市では特別区に見ならって区長を公選、あるいは公募で選ぶ動きが加速するにちがいない。また住民に近いところに決定権を与えるという考え方が広まり、市役所本庁の権限を区役所に委ねる動きも出るだろう。

●他の自治体への意味合い

 影響は政令市以外にも及ぶ。まず、自分たちの地域の実態に合った自治制度を作りたいという意見、つまり一国多制度への動きが高まってくるだろう。大阪が大阪の特殊事情を国に訴え、新法の制定を迫り、全国一律の政令指定都市制度から離脱したとなると、「なぜ大阪だけなのか」というよい意味での対抗心や問題意識が各地に芽生えてくる。「ウチにも適した制度があるのではないか」という考え方が広がるだろう。また、議会のあり方まで全国一律で細かく規定する地方自治法の規定の緩和要望なども出てくるだろう。こうした動きはさらに、いわゆる護送船団方式の財政運営の見直し論議にもつながる可能性がある。

行政改革への意味合い

 都構想が実現すると、大阪市の廃止を機に従来にない大規模な行政改革が始まる。府市の施設は全て経営統合される。たとえば大学も病院も今は府と市が別個の独立行政法人で運営しているが、大阪市が廃止されると府立一本となり、やがて機能の再編、最適化が始まるだろう。今までにない強力で大きな規模の大学や総合病院がつくれたり、逆に一部の施設は二重行政の観点から廃止といった流れもありうるだろう。

 具体的には都構想が実現すると、まず府市の個々の事業の仕分けが行われる。つまり(1)特別区の事業となるもの、(2)特別区が作る一部事務組合が事業主体となる事業(ゴミ収集など)、(3)大阪府が一元的に担うものに分かれる。その棚卸しの過程で重要性の低い事業や過去からの慣習やしがらみに基づいて実施されてきた補助金や手続きの見直しも進むはずだ。

民営化の加速

 大阪の維新改革では、地下鉄、バス、上下水道、ゴミ収集などの民営化(一部に上下分離やコンセッション方式もある)を都構想の3本柱の一つとして打ち出してきた。だが市議会の反対で実現できていないものがほとんどだ。都構想が実現するとこれらの事業は、自動的に府の事業となる。地下鉄もこれまでは3分の2の可決が必要なため市議会が拒否権を発動して民営化を阻止していた。だが阻止し続けたままでいると、やがて大阪市が消滅して府営地下鉄となる。そして府議会で過半数を得れば民営化が決まる。

 一方、大阪市議会が存在するうちに民営化を議決すれば、地下鉄は特別区の共同出資会社となる。おそらく市議会は後者を選ぶだろう。その他の事業についても同様だろう。今まで民営化に抵抗してきた市議会が特別区の共同出資事業という形態の民営化を決議し始めるのではないか。

 かくして旧大阪市では上下水道から交通、ゴミまで、都市のインフラ機能のほとんどが民営化されるだろう。これが他の政令市に与える影響は甚大である。名古屋や東京の公営地下鉄の民営化の議論にも火が付くし、今のところ全国であまり進んでいない上下水道の民営化が大阪を皮切りに加速する可能性がある。

国政への影響

 国政への影響も大きい。まず地方政党が自らの意思で自治体のカタチを変えたとなると、既存政党に対抗する地方政党が各地で出来るのではないか。またそれを母体に国会に議席をもつ地方政党が大阪以外からも生まれる可能性がある。そして彼らが国会でキャスティングボートを握る存在になれば、地方自治法の全面改正が可能となる。そこから本格的な一国多制度、さらに道州制に向けて風穴が開くことになる。

 このように大阪の都構想は大阪だけでなく全国の政令市、そして全ての自治体のあり方を大きく変える可能性がある。いまのところ5月17日については、橋下vs既存政党の戦いだとか、安倍政権の憲法改正との関係などが取りざたされがちである。しかし全国の分権改革に与える影響についてもっと議論されるべきだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。
出典:メールマガジン「日経BPガバメントテクノロジー・メール」2015年4月10日配信号
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