前回に続き、今回は教育や貧困対策を中心に府市の改革を見ていく。

(4)教育改革  大阪府・市の学力、特に小中学生の学力は全国の最下位レベルにある。橋下知事(当時)は教育を最大の課題ととらえ、2008年の就任直後からその改革に熱心に取り組んだ。改革は、第1に現場支援、第2に学校経営のテコ入れ、そして教育委員会制度の見直しの3段階の領域に及んだ。

 知事は、まず公立の小中学校教育の担い手である各市町村の教育委員会に学力テスト結果の公開を迫った。「低学力は大問題」という共通認識を作り、課題の「見える化」を図ったのである。また、教育行政への首長の関与のあり方と責任の所在を条例で定めた。現場支援としては、教室のエアコンの設置と中学校での給食を始めた。大阪では朝食すらとらない(あるいはとれない)生徒が全国平均の2倍もいる。このことが学力にも影響しており、まずは食べさせてあげようと考えた。

 府立高校については学区制を廃止した。また、私立高校への一律的な補助金を見直し、生徒に対して授業料を支援する制度を始めた。そのことで、親の収入に関係なく自由に行きたい学校を選べるようにした。こうして大阪では公立も私立も全ての高校同士が切磋琢磨(せっさたくま)する環境を作った。

(5)現役世代への重点投資(大阪市)

 大阪市は2012年度以降、子育て支援や教育予算など現役世代向けの予算を大幅に拡充してきた。金額は、2011年度の67億円が2014年度には270億円にまで増えた。中身は、子ども医療費助成の拡充、さきほどの中学校給食、小中学校のICT教育やエアコン整備などである。

(6)貧困・弱者問題への対峙

 大阪市の西成区は日雇い労働者が多く、生活保護の受給率も高い。今回の維新改革では「西成特区」というプロジェクト名のもとで、西成区の地域再生、弱者支援のテコ入れを始めた。その際には府警を含む大阪府、市役所の本庁、区役所の連携体制を作った。

(7)既得権益の見直し

 大阪府は他府県と同様に、かつては社団法人日本観光協会(現・公益社団法人日本観光振興協会)に170億円、中央労働災害防止協会に38億円など、国の関連団体への賛助金を毎年払っていた。維新改革ではこれらを廃止した。またトラック協会やバス協会への補助金もいったん廃止した上で事業の再構築を求め、その上で再開した。

 既得権益の見直しという意味では、高齢者向けも例外とせず、全員に対して一律で行っていた税や水道料金などの公共料金の減免も見直した。

  

(8)文化支援の見直し

 文化事業の支援予算も既得権益と化していた。維新改革では大阪センチュリー交響楽団(現・日本センチュリー交響楽団)への府の補助金を段階的に廃止し、自立させた。同じく大阪市音楽団も自立、民営化させた。文楽も同じだ。努力せずにもらえる今までの補助金の仕組みを変え、観客のニーズに向き合い、経営の自立化に向けた努力を促す補助制度に変えた。

(続く)

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。
出典:メールマガジン「日経BPガバメントテクノロジー・メール」2015年1月13日配信号
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