ここ数年、空港の民営化の話題が続く。関西空港に始まり、仙台、福岡、そして北海道、熊本、高松、南紀白浜など全国で18カ所がすでに民営化され、あるいは計画中である。空港だけではない。道路、図書館、アリーナ、美術館など、この20年ほどの間に公共インフラの民間委託や民営化がかなり進んだ。

 この間に手法も段階的に進化した。第1段階は委託や指定管理者制度である。これは当初は清掃や警備などの部分委託が中心だったが、近年は施設全体の運営を任せる包括委託(下水処理場など)や指定管理者制度などが普及した。第2段階はPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)である。2000年頃から施設建設をゼネコン等の民間企業が肩代わりする日本型のPFI が広まった。そして第3段階が空港等の近年のコンセッション(運営権譲渡)ブームである。

 この間に担い手となる企業も広がった。第2段階までは、ゼネコンを除くと担い手はサントリーパブリシティサービスなどの専門企業、あるいは地元のビルメンテナンス会社などだった。ところが最近の空港民営化には、三菱商事やオリックスなど大手企業が入ってきた。

 「官から民へ」そして「不動産の金融化」は世界的な流れであり、公共インフラの民営化は今後も広がるだろう。しかし、空港の次には何が対象になるのか。また、いつ、どこからどういう手法で民営化されていくのか、わかりにくい。上・中・下の計3回にわたってこれまでのわが国の公共インフラの民営化を総括し、今後の動向を考えたい。

「インフラビジネス」への関心の高まり

 「公共インフラ」の民営化はこの数年、「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)/PFI」というキーワードで語られてきた。旗振り役は内閣府と国土交通省である。両者は特に、空港を対象にコンセッションの制度整備から普及に至る過程で大きな役割を果たした。

(参考)PPP/PFI推進アクションプラン(平成30年改定版)(内閣府 民間資金等活用事業推進室)

 民間側の関心も特に投資家を中心に高まってきた。例えば、三菱商事の100%連結子会社である丸の内インフラストラクチャーが、都市インフラ事業を推進すべく日本初の総合型インフラファンドを組成した。同社は民間企業分を含む国内インフラ事業を投資対象に投資事業有限責任組合(ファンド)を組成し、既に300億円超の出資のコミットを得た。将来的には最大1000億円を上限に国内の機関投資家から出資コミットを受ける予定という。

(参考)三菱商事の報道発表資料(2017/12/11)

 7月19日には日経ビジネスイノベーションフォーラム「インフラビジネスの未来」(主催:日本経済新聞社)が開催された。地味なテーマだが400人の受講定員がすぐに埋まった。ちなみに、このセミナーで筆者は基調講演「公共インフラの今後と民間セクターの役割 ~自治体の経営と財政の視点から~」を担当した。

 情報提供のサイトも充実してきた。例えば「新・公民連携最前線」(日経BP社)と「インフラビジネスJAPAN」(イノベーション推進センター)が全国の動きをくまなく紹介している。

公共インフラの民営化は歴史の必然

 なぜ公共インフラの民営化が進むのか。4つの動きに着目して整理しよう。

 第1は、世界各国に共通する国と自治体の財政危機である。財政当局はとにかく支出は抑えたい。インフラの投資と維持管理の費用もなるべく民間に負担してもらいたい。日本も例外ではない。1999年にPFIが法制化され、下水処理場から美術館まで様々な建物の新規建設にPFIが使われた。さらに2011年には同法が改正され、既存インフラについても料金収入があればコンセッション方式による民営化が可能となった。

 第2は民間の金融ビジネスからの参入である。この20年の間にありとあらゆるアセットの金融商品化が進んだ。特に不動産と金融の融合は著しく、不動産の証券化を経て上物REIT(不動産投資信託)が出現した。さらに、最近ではホテルや病院など分野特化型のREITまで出てきた。

 公共インフラについても主に海外で空港や上下水道が民営化され、民間の投資対象となった。公共インフラの収益性(ROI:投資利益率)は高くない。しかし、世界的なカネ余りの中で公共インフラは長期の安定投資先として魅力的である。しかもリーマンショックのような投資環境の激変のリスクが増している。代替投資の対象としても「公共インフラ」への関心が高まる。

 第3は新興国の伸長である。新興国では港湾、空港、道路など公共インフラ投資が盛んだが、資金も技術もない。そこで先進国企業が政府と組んで機械をパッケージ輸出する。資金調達では先進国の投資家を募り、インフラファンドで対応する。そうした中からフランスのベオリア(上下水道)、バンシ(空港)など、先進国発祥の専門企業がグローバルオペレーターへと育っていった。

 第4は規制緩和と情報公開の進展である。考えてみれば道路、上下水道、港湾、空港などは、もともと「公共インフラ」として民間投資になじまないとされてきた。公平と平等を旨とする官僚制と民主主義に照らせば、社会の基盤を支えるインフラを特定の民間企業に任せるといったことは論外だった。また企業もかつては巨額の資金を長期にわたって寝かせ、しかも利幅の薄い事業には興味が薄かった。短期の投資でもうかる仕事がいっぱいあったのである。

 ところが状況は変わった。政府の事業運営の実態が情報公開されるようになり、企業は公務員集団よりも効率的で質の高いサービスを提供できることが分かってきた。入札制度も整備された。そこで業務委託から始まり、やがて投資についても競争の中で企業を選び、経過を情報公開しさえすれば、民間に任せてもよいと考えられるようになった。そして民間側もITを駆使すれば複雑な収支予測や契約手続きもクリアできるとの自信を得た。

(参考)日経ビジネスイノベーションフォーラム「インフラビジネスの未来」での筆者の基調講演の資料
上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都監理団体経営目標評価委員会委員も務める。2018年3月まで東京都顧問および都政改革本部特別顧問。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。
出典:出典:メールマガジン「日経BPガバメントテクノロジー・メール」2018年8月10日配信号
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