TBSで放映中のテレビドラマ『下町ロケット』を毎週楽しみに見ている。ドラマという虚構の産物とはいえ「ものづくり」を軸に据え、超巨大企業に喧嘩を売った弱小企業の熱い職人魂のほとばしりに、ついつい感情移入している自分がいる。最も、超巨大企業側の目線で言うと、「M&Aしてしまえば話が早いのになあ」と冷めた見方をする自分もいるが、それを言うとドラマが成立しない。

 筆者自身コンテンツ屋であり、ハードウエア的なものをつくる人間ではないのだが、内奥に「ものづくりニッポン」的な自分が脈々と息づいているのかもしれない、などと夢想する日曜の夜なのだ。

 「IoT」や「インダストリー4.0」というトレンドワードをビジネス系メディアの記事で目にするたびに「ものづくりニッポン」という言葉が脳裏をかすめる。製造業や工場の在り方を革命的に変えるかもしれないこれらのムーブメントに「ものづくり指向」大好きおじさん達が「俺たちの時代が来た!」と言ったかどうかは知らないが、少なくとも約10年前の「Web2.0」ムーブメントの時とは違い、おじさん達のはしゃぎ具合が微笑ましい。

 それはそうだろう。Web2.0はサイバー空間の潮流であって、それを主導するのは「シリコンバレーの連中」だった。製造業関係者からすると「関係ないね感」「置いてきぼり感」に満ちていた。しかし、「IoT」や「インダストリー4.0」は違う。サイバー空間とリアルの密接な連携ありきの話だけに、形のある製品を生み出すことが大好きな日本のものづくり指向おじさん達の士気も大いに上がるというものだ。

図1●ドアのサムターン部分に覆いかぶせるように両面テープで装着する。ドアロックの形状に左右されるので、装着可能なドアは限られるが「今後は各種形状にも対応したい」(フォトシンス 代表取締役社長の河瀬航大氏)とのこと
出所:フォトシンス
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 設立から1年余のベンチャー企業が開発した「Akerun」(アケルン)というスマートロックに対するメディアの注目度を見ていると、それまでは得体の知れなかった「IoT」というキーワードが「形あるもの」「手に取れるもの」として自分達の前に現れたことに対する安堵感のようなものを感じる(図1)。

 しかも、「スマホで鍵が開く」という極めて分かりやすい「理解へのトビラ」が大きく開いているだけに、IoTが気になるビジネス系のおじさん達から、デジタル系に弱い一般市民まで、さらに言えば、アーリーアダプターからレイトマジョリティーに至るまで、全方位的に刺さるニュースとしていかようにも料理できる材料なので、メディアが飛びくのも無理はない。

 そういう筆者も、Akerunの存在を知った当初は「スマホで鍵が開くの? それは便利だね」くらいにしか思っていなかった。だが、話を聞き、考えれば考えるほどに、このBluetooth経由の信号でサムターンをモーターで回すだけの3万6000円の製品の向こう側には、単に「便利な鍵」以上の可能性が広がっていることに気付かされるのだ。それと同時に、これまでモヤモヤとして得体の知れないIoTというものの一端が、急に現実味を帯びて腑に落ちた瞬間でもあった。

 「ならばお前はIoTの何を理解したのか?」と問われそうだが、ひとつ言えるのは「ハードウエアを作りました、売りました、入金がありました」で完結していた製造業の分野にも「サービスで継続的に儲けることができる」という新しいビジネスモデルの可能性がもたらされたということだろう。Akerunを例にその可能性を考えてみたい。

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