LPレコードにゆっくりと針を落とし、歌詞カードの一語一句を指でなぞりながら目に焼き付ける──。

 思えば、かつては音楽の聴き方としてこれが普通だった。当時、中学生だった筆者は、そうやってサイモン&ガーファンクルの曲から米国の若者が内包する苦悩の一旦を垣間見、キング・クリムゾンが紡ぎだす音と言葉の波動から、ファンタジーと不条理の世界に浸かる歓びを覚えた。そして今、ダウンロードや定額制の音楽配信が聴取行動の中心になり、悲しいことにそんな音楽の聴き方から遠ざかって久しい。

写真1●Lyric Speaker(リリック・スピーカー)
出所:SIX  価格:32万4000円(税込)、販売予定:2016年6月予約受け付け、9月販売開始(予定)
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 リリック・スピーカーは、レコード時代にあった音楽とのふれ合い方の原点を思い出させてくれる(写真1)。ベンチャーのSIXが開発したこの“新しくて古い”装置は、スマートフォンで音楽を再生すると歌詞を透過型のスクリーンに表示するものだ。ただし、カラオケのような単純なライン表示ではない。躍動的にビジュアライズされた歌詞が楽曲の進行にシンクロして一節ごとに踊る。

 こればかりは、いくら言葉を尽くしてもその様相は理解してはもらえまい。次の動画を見ていただくと筆者の伝えたい思いがご理解いただけよう。amazarashiというグループの『自虐家のアリー』の公式ビデオクリップだ。音楽とともに歌詞が表示されるリリック・スピーカーのスクリーンだけを固定カメラで撮影する、というシンプルな映像なので、この製品がどのようなものであるかを理解していただけると思う。

 amazarashiの歌詞は、文学性、メッセージ性、狂気性、内面葛藤といった独自の世界観に彩られており、聴くものの内奥を鋭い刃物でえぐられるような感覚に陥る

 透過スクリーン効果により窓のように向こう側が透けて見える中に歌詞が文節単位で滑らかに踊る様は、まさに「浮遊感」という言葉がぴったりだ。このような文字の演出により、カラオケやエンドロールによる表示とは、まったく異なる感覚で歌詞と対峙している自分がいることに気付かされる。

歌詞に向き合って音楽を聴くという体験を深化させたい

 音楽制作業が本業の筆者としては、どんな人がこれを作ったのか俄然興味が湧いてきた。またITライターとして見ると、IoT(Internet of Things)端末としてのニオイも感じ取れるこの装置の仕組みにも迫られずにはいられない。SIXの共同実行責任者でクリエイティブディレクターの斉藤迅氏に話を聞いた(写真2)。

写真2●SIX 共同実行責任者・クリエイティブディレクターの斉藤迅氏。斉藤氏自身もアーティストとして音楽活動を行っている
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 斉藤氏自身、本職と並行しアーティストとしてレーベルに所属し音楽活動を行っているそうだ。「今の時代、歌詞に向き合って音楽を聴くという体験を深化させられたら、アーティストが表現したいこと、伝えたいことをもっと味わい尽くせるはず」という思いが開発の根底にあるそうだ。

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