第1~2回では,内部統制の意義やコーポレートガバナンスとの関係について説明した。また,内部統制を規定する現行の法律や,内部統制に関連する法律についても簡単に紹介した。本稿では,内部統制の法律上の位置付けついて,もう少し詳しく解説することにする。具体的には,日本の法制度(法律・判例)において,内部統制が規定された経緯や,これまで内部統制がどのように位置付けられてきたのかについて説明する。

 既に触れたように,内部統制はもともと会計上の,あるいは,経営上の概念であることから,日本の法律・判例において「内部統制」という言葉が登場したのは比較的最近のことだった。すなわち,2000年(平成12年)9月20日に大阪地方裁判所が,いわゆる「大和銀行事件」に関して下した判決である。

 この事件では,大和銀行ニューヨーク支店の行員による約11億ドルもの巨額損失を発見できなかったとして,当時の代表取締役,ニューヨーク支店長の地位にあった取締役,その他の取締役,および監査役の「善管注意義務」または「忠実義務」が問われた。これについて大阪地裁は以下の通り述べ,代表取締役および担当取締役の「内部統制の構築義務」,並びに,その他の取締役および監査役の「監視義務」を認めたのである。

 「健全な会社経営を行うためには,目的とする事業の種類,性質等に応じて生じる各種のリスク・・・の状況を正確に把握し,適切に制御すること,すなわちリスク管理が欠かせず,会社が営む規模,特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして,重要な業務執行については,取締役会が決定することを要するから,会社経営の根幹に関わるリスク管理体制の大綱については,取締役会で決定することを要し,業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は,大綱を踏まえ,担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う」。

 「この意味において,取締役は,取締役会の構成員として,また,代表取締役又は業務担当取締役として,リスク管理体制を構築すべき義務を負い,さらに代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり,これもまた,取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすべきものと言うべきである」。

 この大和銀行事件大阪地裁判決は,取締役十数名に総額829億円もの巨額の損害賠償責任を認めたことで社会的に注目を浴びた。加えて法律的には,取締役のリスク管理体制を構築する義務を「内部統制」という言葉を用いて初めて明示的に認めたことから,その後の実務に大きく影響力を与えたのである。

 そしてこの判決に続き,大阪地裁を含む複数の裁判所で,代表取締役および担当取締役の内部統制の構築義務と,その他の取締役および監査役の監視義務を認める判決や所見が続けて下され,判例上,内部統制の構築や監視が取締役の善管注意義務・忠実義務の一内容として構成されることとなった。


「仏作って魂入れず」では許されない!

 内部統制に関する裁判所の考え方をもう少し詳しく説明するために,大和銀行事件の判決以降に,取締役の内部統制構築義務が問われた事例を紹介しよう。まず,総会屋への利益や裏金捻出を巡る神戸製鋼所株主代表訴訟事件においては,裁判所は2002年に,和解により事件が終結する際に,以下のような「所見」を明らかにした。

 「神戸製鋼所のような大企業の場合,業務の分担が進んでいるため,他の取締役や従業員全般の動静を正確に把握することは事実上不可能であるから,取締役は商法上固く禁じられている利益供与のごとき違法行為はもとより,大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出行為等が社内で行われないよう,内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである。そうであるとすれば,企業のトップとしての地位にありながら,内部統制システムの構築等を行わないで放置してきた代表取締役が,社内においてなされた違法行為について,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れるということができるというのは相当でないというべきである」

 この判決において重要な点は,内部統制が構築されていたとしても,以下の通り,「構築されたシステムが機能していなければ,取締役は責任を免れない」とした点にある。すなわち,「仏作って魂入れず」では駄目だということだ。

 「この点につき,被告らは,神戸製鋼所においても一定の内部統制が構築されていた旨を主張する。しかし総会屋に対する利益供与や裏金捻出が長期間にわたって継続され,相当数の取締役及び従業員がこれに関与してきたことからすると,それらシステムは十分に機能していなかったものと言わざるを得ず,今後の証拠調べの結果においては利益供与及び裏金捻出には直接関与しなかった取締役であったとしても,違法行為を防止する実効性のある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監査等を十分に尽くしていなかったとして,関与取締役は関与従業員に対する監視義務違反が認められる可能性もある得るものである」。

 企業が内部統制に取り組む際には,ともすれば制度の構築にのみ注力し,その運用がおろそかになりがちである。そのため,上記の点には十分に留意する必要がある。

 単に,コンプライアンス部署の設置など組織体制を整備する,あるいは,法令遵守やリスク管理のための規程類が社内に存在する,というだけでは十分ではない。整備された体制・規程類に従い,運営されていることが必要なのである。新会社法においても,内部統制の構築義務自体は取締役会(を構成する取締役)に存するものの,構築されたシステムの運用はITシステムの担当部署や担当者に依るところが大きく,システム担当部門・担当者の果たすべき役割は極めて大きいのである。

 そのほかにも,ヤクルト株主代表訴訟事件判決(東京地裁2001年(平成13年)1月18日),ダスキン株主代表訴訟事件判決(大阪地裁2004年(平成16年)12月22日判決),雪印食品株主代表訴訟事件判決(名古屋高裁金沢支部2005年(平成17年)5月18日,原審は金沢地裁2003年(平成15年)10月6日判決)など,内部統制の構築の義務が問題となった判例は少なくない。

 これらの判決においては,対象となる行為があった当時の業界の平均的水準に照らして,取締役の義務違反を認定していることから,内部統制の構築・運用にあたっては他社の業界事例を参考にしつつ,自社にとって最もふさわしいシステムを構築・運用していく必要がある。


判例上の概念から企業法制の中核的存在へ

 ここまで説明してきたように,内部統制は,法律的には判例上の概念として登場したが, 2002年(平成14年)の商法改正により,「委員会等設置会社」については内部統制構築が義務づけられることが法律に明示された(商法特例法21条の7第1項2号,商法施行規則193条6号)。

   委員会等設置会社とは,「大会社(みなし大会社を含む)で,定款により委員会等設置会社をとることを選択した会社」を言う。そのような会社は,監査・監督の仕組みについて大きく異なる規制に服する。具体的には,取締役会の役割は,基本的事項の決定と委員会メンバーおよび執行役の選任といった監督機能が中心となり,指名委員会,監査委員会,報酬委員会の3つの委員会が監査・監督という重要な役割を占める。また,監督と執行が制度的に分離され,業務執行は執行役が担当し,会社を代表する者も代表執行役となる。さらに,業務の意思決定も大幅に執行役に委ねられる。2002年(平成14年)の商法改正で新しく導入された制度である。

   また,2003年(平成15年)の証券取引法改正により,2004年(平成16年)3月31日を決算日とする事業年度から,有価証券報告書に「内部統制システムの整備の状況」を記載することが義務づけられた。

 さらに前回紹介したように,2006年(平成18年)5月1日に施行された会社法においては,大会社に対し内部統制構築義務が認められ(362条4項6号,同条5項,会社法施行規則100条1項),この6月7日に成立した金融商品取引法においては内部統制の報告書の作成,および,監査人による監査証明が義務づけられることとなった(金融商品取引法24条の3,193条の2第2項)。

 以上を要約すると,内部統制は,従来は法律上明示されることはなく,訴訟提起された事案において裁判所が事後的に取締役の忠実義務・善管注意義務に違反したか否かという抽象的な枠組みの中で判断してきた。その後,商法改正によって委員会等設置会社に内部統制構築が義務付けられる,といった過渡期を経て,今後は会社法や金融商品取引法という企業法務において最も重要な法律に内部統制の構築義務が明定され,名実ともに企業法制の中核的存在の1つとして位置付けられたわけである。

 もっとも,内部統制の法制度における位置づけが変わったとしても,従前の判例は引き続き実務において影響力を持つ。学者の間でも,判例が今後どこまで意味を有するかについて盛んに議論されているが,少なくとも判例が無意味になるということはなく,裁判所が今後,内部統制の構築に関する取締役の責任を,従前の判例よりも低く認定するようなことはない,という点はほぼ一致しているようである。

 従って,「仏作って魂入れず」は許されない(運用も大切),あるいは,業界の平均的水準を押さえる,という判例の傾向を十分に踏まえた上で,会社法や金融商品取引法に基づく内部統制の構築を行うことが重要である。次回は,これらの新しい法制度において,内部統制が具体的にどのように規定されているのかを解説する。

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大 毅(だい つよし)
1999年3月,慶応義塾大学法学部法律学科卒業。2000年10月,弁護士登録。森総合法律事務所(現・森濱田松本法律事務所),阿部井窪片山法律事務所で知的財産法などを中心に執務。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学博士課程専攻(知的財産法・技術移転法)を経て,2005年10月,千代田区主催のベンチャーインキュベーションセンター「ちよだプラットホームスクウェア」内にて独立開業。